2015 Fiscal Year Research-status Report
公民権運動から半世紀、アフリカ系アメリカ文学のパラダイムの行方──世代間の対話
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15K02348
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
西本 あづさ 青山学院大学, 文学部, 教授 (40316881)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | Toni Morrison / ポストソウル / 人種表象 / アイデンティティ / 歴史 / 多文化主義 / Thomas Allen Harris / Danzy Senna |
Outline of Annual Research Achievements |
計画に必要な修正を加えつつ、以下の通り研究を進めた。 ① Toni Morrison文学の背景──Morrison文学が成熟期を迎える1980年代から90年代に作家が深く関わった多文化主義運動と文化戦争についての文献を収集した。また、2016年3月にMorrisonがハーバード大学で行った講演会に参加し、作家自身によるParadise(1997)執筆前後の問題意識についての議論を聞く機会を得た。 ② Toni Morrison研究書の翻訳出版──Valerie Smith, Toni Morrison: Writing the Moral Imagination (Wiley-Blackwell, 2012) を木内徹氏(日本大学)、森あおい氏(明治学院大学)と共訳し、『トニ・モリスン──寓意と想像の文学』(彩流社、2015年)として出版した。 ③ポストソウル研究──2015年6月、映画監督Thomas Allen Harris氏を招聘し、ドキュメンタリー映画Through a Lens Darkly: Black Photographers and the Emergence of a People (2014)の上映と講演会を企画・開催した。同映画の日本語字幕版制作では監修を務めた。同氏と黒人表象とアイデンティティをめぐる問題について意見交換をするとともに、黒人研究の会の会誌編集長として来日講演原稿の編集に携わり、『黒人研究』第85号に収録した。2016年3月には、アメリカ大使館の助成金と科研費により作家Danzy Senna氏を招聘し、同大使館主催の講演会と科研費による研究会を企画・実行した。研究会には、木内徹氏、森あおい氏、平沼公子氏(聖徳大学)柴崎小百合氏(城西国際大学)、小泉泉氏(フェリス女学院大学)他が参加し、人種、歴史、身体、アイデンティティをめぐる活発な議論が行われた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画に一部変更が生じたものの、総合的にはおおむね順調に進展している。 成果は以下の通りである。研究テーマの二本柱であるToni Morrison文学の背景とポストソウルと呼ばれる世代の文化表現について、いずれも必要な文献資料の収集を進めることができた。Morrison文学の背景の研究においては、2015年10月に出版した研究書の翻訳を通して、Morrison作品とその批評の再確認をすることができた。共訳者である木内徹氏、森あおい氏とMorrison文学をめぐり率直な議論を交わせたことも大変有益であった。また、2016年3月にMorrisonがハーバード大学で行った講演を聞く機会を得、本研究が関心を寄せる1990年代当時の問題意識について作家自身の議論を聞くことがかなったのは、本研究において貴重であった。 一方、ポストソウル研究では、予想を上回る成果を得た。当初2015年度は1名の研究者もしくはアーチストを招聘する予定であったが、映画監督Thomas Allen Harris氏と作家Danzy Senna氏の2名を招聘する機会を得た。彼らの思想や創作活動とその背景について直接に話を聞き議論を交わせたことは、計り知れない収穫であった。 他方、やむをえず計画が変更となったのは次の2点である。一つは、2015年度と2016年度に分けて行う予定だったポストソウル関連のゲスト招聘が2015年度に集中することになった結果、文献を通じた1980~90年年代の社会・文化・政治状況についての基礎研究に遅れが出ることとなった。2つ目は、国外出張の目的をMorrisonのハーバードでの講演出席へと変更したため、計画していた多文化主義運動と大学カリキュラムにおけるエスニック・スタディーズの歴史的展開についての現地調査は延期せざるをえなかった。これらの遅れや変更について、2016年度に可能な限り修正したい。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度の成果を土台に、以下のテーマに沿ってさらに研究を進める。 ① Toni Morrison文学の変化と時代背景 ノーベル賞受賞前後のMorrison文学の変化と時代背景の関係についての分析を進めるため、1980~90年代という時代について「多文化主義」「文化戦争」「ポストソウル」などをキーワードに、さらに文献収集と読解を進める。同時に、可能な限りこの時代を生きたアーチストや研究者に当時の社会・文化・政治状況について聞き取り調査を行う。また、2016年9月から1年間、青山学院大学より与えられる在外研究期間を利用し、プリンストン大学図書館に寄贈されたMorrisonの原稿を閲覧し、作家の創作過程を分析する。なお、2016年7月にニューヨークで開催される第7回Toni Morrison学会に参加予定である。研究の中間報告として、Morrison文学のポストソウル世代との関わりを分析する論考を学会誌等に発表したい。 ② ポストソウル研究 ポストソウルなどの呼称でくくられる世代の作家による人種表象やアイデンティティの探求についてさらに考察を深める。彼らとMorrisonら70年代以降のアフリカ系アメリカ文学・文化をけん引してきた前世代との継続性と相違点を分析し、将来的には、ポストソウル世代が出現した20世紀末と21世紀のアフリカ系アメリカ文学・文化をめぐる状況との比較へと研究を展開することで、公民権法成立から半世紀を過ぎた今日の人種・エスニシティとアイデンティティの関係をどう捉え、未来に向けてアフリカ系アメリカ文学・文化をどのような言葉で語るのかを探求していきたい。2016年度は、Danzy Senna、Colson Whiteheadらの作品と批評を読み進める。また、Danzy Senna, Caucasia(1998)の翻訳を完成するとともに、同氏をロサンゼルスに訪問し対話を継続したい。
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Causes of Carryover |
予算を立てる段階での私の理解不足から、海外からのゲスト招聘の謝金と招聘に付随するアルバイト謝金の中に、それにかかる一連の交通費・日当なども含めて計上してしまっていた。そのため、当初の見積もりよりも人件費・謝金が減り、交通費が多くなった。 さらに、2015年6月のThomas Allen Harris氏の招聘については青山英文学会より、2016年3月のDanzy Senna氏招聘についてはアメリカ大使館より、それぞれ新たに助成が得られたため、研究自体は進展したが、科研費で賄う人件費・謝金の額が予定よりも大幅に少なく済んだ。なお、Harris氏の航空券は、本研究代表者個人のマイルを使って購入、Danzy Senna氏の来日のすべての交通費はアメリカ大使館の助成金で賄ったため、科研費での支出はしなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2015年度と2016年度にそれぞれ1名ずつアメリカから関連する分野の研究者またはアーチストを招聘する計画であったが、2015年度に2名の招聘を実行することができたため、2016年度の招聘を行わない予定である。 一方、所属する青山学院大学より2016年9月より1年間与えられた在外研究期間を利用して、アメリカ合衆国滞在中に、プリンストン大学を訪問し、同大学図書館に寄贈されたToni Morrisonの原稿を閲覧し、可能な媒体でデータ保存をしてきたい。
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Research Products
(3 results)