2015 Fiscal Year Research-status Report
モダニズム文学形成期の英米における慶應義塾の介在と役割
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15K02349
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
巽 孝之 慶應義塾大学, 文学部, 教授 (30155098)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 横浜正金銀行 / 加納久朗 / ノブレス・オブリージュ / 小泉八雲 / ボストン・ブラーミン / パーシヴァル・ローウェル / 民俗学 / オリエンタリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
モダニズムと慶應義塾の連動をめぐる研究主題の中核には、世紀転換期の横浜正金銀行ロンドン支店周辺の文化的サロンの調査を据えたが、今年度においてその重要な実績となったのは、1920年代に横浜正金銀行ロンドン支店支配人であった加納久朗子爵を祖父にもつロンドン在住の経済史家・伊藤恵子氏がその博士号請求論文『戦前のイギリスにおける日系共同体』 The Japanese Community in Pre-war Britain (London: Routledge, 2001)に引き続く研究を行っているため、頻繁に資料や意見の交換を行なうばかりか、伊藤氏が自身の家族を主体にした初の小説『わが上海、1942年-1946年』My Shanghai, 1942-1946 (Renaissance, 2015)を上梓し来日されたため、2016年3月9日には本科研費を母胎に、慶應義塾大学藝文学会の協力を得て、記念講演会「歴史家が小説を書く時」を開き活発な質疑応答を得ることができたことである。さまざまな意見が交わされる中でも、慶應義塾留学生を初めとする若手知識人を支えた横浜正金銀行ロンドン支店の気風について、伊藤氏が「ノブレス・オブリージュ」(noblesse oblige)と簡潔に定義されたのは収穫といえる。 加えて、野口米次郎の一家とも交流の深かった作家・小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の曾孫にあたる民俗学者にして島根県立女子短期大学教授・小泉凡氏と2015年8月29日には米子コンベンションセンターBIG SHIP二階の国際会議室にて公開対談「小泉八雲とSF的想像力」を行ない、こちらも小泉氏の用意された詳細なパワーポイント映像群とともに明治時代における欧米ジャパノロジストの活躍がいかにモダニズムに影響を与えたかについて、活発な質疑応答が展開された。そこでは八雲が地震大国日本の精神的特質を物理的不安定性(instability)を前提とした柔軟極まる精神的適応能力に求めたことが再確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
いかなる研究もなかなか予定通りに進展しないことが多いものだが、本研究に関しては、構想には入っていたとはいえ、まったくの奇遇というかたちで横浜正金銀行ロンドン支店長を祖父にもつ経済史家・伊藤恵子氏が来日して記念講演会が実現したり、まったくの僥倖というかたちで小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の曾孫である民俗学者・小泉凡氏との公開対談が実現したりと、思わぬかたちの進展を遂げている。これはあくまで個人研究にすぎないけれども、こうした奇遇や僥倖のうちに限りなく共同研究者に近い方々がさまざまな洞察を与えてくれることが多いため、講演会や公開対談についてはすべて克明な記録を残し、ご本人たちの許可を得たうえで、ゼミのウェブサイトに発表していく所存である。したがって、こうした方々やテープ起こしのアルバイト院生に対する謝礼も、きわめて健全かつ円滑に運用されている。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の伊藤恵子氏記念講演会の際には、慶應義塾大学経済学部名誉教授で浩瀚な研究書『日本経済史』の著者でもある杉山伸也氏の参加も仰いでいたが、緊急入院のためご欠席となった。しかし、本研究の学際的充実のためには経済史の専門家との討議が不可欠であるため、近く無事退院された杉山教授自身を囲む研究会を開催したい。また、慶應義塾史の専門家ともいえる山内慶太教授についても、研究が一定の進展を見た段階で、たとえばモダニズム時代における紀州藩の関与をめぐっても、何らかのご講演をいただく。 そうした予定に加え、申請者自身は、自身の祖父・巽孝之丞自身が若き日に横浜正金銀行サンフランシスコ支店に勤務していたころ、できたばかりのヨセミテ公園へ足を運び環境論的な視座を培ったことについて、論文をまとめようとしている。それは彼がその直後にロンドンで出会うことになる南方熊楠の自然環境思想とも密接に連動するからである。
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Causes of Carryover |
2015年には6月に第10回国際ハーマン・メルヴィル会議を日本ハーマン・メルヴィル学会主催、慶應義塾大学G-SECアメリカ研究プロジェクト共催というかたちで行なったため、その前段階として本科研費研究からも一定の支出が予測されたが、運良く内外からの助成金が得られたために、本科研費研究からの支出は一切不必要となった。加えて、8月末の小泉凡氏との米子における公開対談についても、二泊三日という行程であったため、さほどの支出が見込まれなかった。また、本来はロンドンへ出張して伊藤恵子氏との共同研究を進展させる予定もあったが、彼女本人が新刊のプロモーションも兼ねて来日したこともあり、日本国内における公開講演などで討議がまとまることになった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
これまでの本研究は基礎的な資料収集と理論構築に費やされているため、そこで獲得された収穫を公表しまとめていく作業はこれからの年度における中核を成す。まず第一に、上記の小泉氏との公開対談についてはテープ起こし作業も終わりご本人による朱入れも完了したので、ゼミのウェブサイトCafe Panic Americanaにアップロード予定の段階に来ており、バイト代や小泉氏への原稿料などが支出される。加えて、これまでの記録は静止画像が中心であったが、今後の内外における取材においては積極的に録音や録画を行なう予定のため、その作業に耐え得るハイテク機器数種の購入を考えている。そして、初年度には内外の関連地域への出張の時間が取れなかったので、今年度には実現させる構想を抱いている。
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Remarks |
同サイトに本研究成果のひとつである小泉凡氏との対談も2016年4月中に掲載予定
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Research Products
(9 results)
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[Book] The World According to Philip K. Dick (Co-Written)2015
Author(s)
Takayuki Tatsumi, Alexander Dunst, Stefan Schlensag, Marcus Boon, Mark Bould, James Burton, Erik Davis, Richard Doyle, Yari Lanci, Roger Luckhurst, Laurence A. Rickels, Chris Rudge
Total Pages
234 (137-154)
Publisher
Palgrave Macmillan
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