2017 Fiscal Year Research-status Report
シェイクスピア・フォリオの書き込みに見られる17世紀の読書スタイル
| Project/Area Number |
15K02359
|
|---|
| Research Institution | Meisei University |
|---|
Principal Investigator |
住本 規子 明星大学, 人文学部, 教授 (10247174)
|
|---|
| Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
|
| Keywords | シェイクスピア / 初期近代 / 書物 / 読者 / 書き込み |
|---|
| Outline of Annual Research Achievements |
本課題はシェイクスピア・フォリオを中心として、現存するシェイクスピア戯曲の初期近代における出版物に残された当時の、特に17世紀の所有者／使用者（読者）による書き込みを読み解くことを目指しています。
本年度の最も重要な成果は、コモンプレイシングについてのインテレクチュアル・ヒストリー分野の研究成果から、本課題について以下の気づきを得たことです。17世紀の読者による明星大学所蔵のファーストフォリオ（MR774）の書き込みでは、お芝居のプロットや人間観にかかわる名文句への注目に交じって、自然や法律などを含む知識や情報への興味の反映だと解釈すると納得のいく種類の書き込みが散見されます。これらの書き込みは、文学作品と向き合う読者像として、現代のそれのみならず、グラスゴー・コピーの読者（第2代フォークランド子爵）の事例からもいささか逸脱した興味の有り様を示しています。最近インテレクチュアル・ヒストリーの分野で解明が進んできたコモンプレイシングという当時の学問手法への理解を踏まえるなら、これらの書き込みは、シェイクスピア・フォリオが、あらゆる知識・情報を取材する目的のもとで読まれた当時の学術書と同様に、そのような書物の一冊として使用されたことを示しているのではないでしょうか。この着想を今後論文に発展させるつもりです。
新しい書き込みのあるページ画像の取得としては、パドヴァ大学所蔵のファーストフォリオ（West 198)とヴェネツィア、国立マルチャーノ図書館のセカンドフォリオのそれをそれぞれ現地にて撮影しました。West 198は、一部の作品に上演の準備と考えられる書き込みがあることで知られていますが、現地に行くことで、このコピーがそもそもどのような蔵書に属していたかについての研究が行われていること、まだ最終的な出版に至ってはいないというその研究の主な成果、知見を教わることができました。
|
| Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度の研究実施計画(1)から（4）それぞれについての判断は以下のとおりです。
(1)書き込みのあるシェイクスピア・フォリオおよびクオート本の調査：画像採取のための海外出張について、先年度に続いて出張を可能にする日程が組みにくい事情があり、イタリアのパドヴァとヴェネツィアの２か所の図書館のみ、計2冊の閲覧調査と画像採取にとどまり、遅れの挽回は十分とはいえませんでした。
(2)初期近代読書方法の研究：集中して取り組めたことで、大いに進捗しています。
(3)明星コピー（MR774)の研究：コモンプレイシングの実践例として一部の書き込みをとらえる着想を得たが、当初予定していたジャンルごとの読み方の検証という点ではやや遅れています。
(4)明星大学のシェイクスピア・コレクションの研究：ページ画像のデータベース化が行われたコピー以外のコピーに関する調査がやや遅れています。
以上により、全体として、やや遅れていると判断します。
|
| Strategy for Future Research Activity |
以下の3点を重点的に進めることにします。
１）できるだけたくさんの書き込みの実地調査を行い頁画像データを収集します。 ２）学者としてのコモンプレイシングの実践と文学鑑賞が共存していたMR774の読者像の分析を進めます。３）明星大学所蔵のシェイクスピア初期版本の書き込みの転写作業を進めます。
いずれも時間をかける必要があるので、いかに研究のための時間を確保するかが課題であり、努力したいと思います。
|
| Causes of Carryover |
書き込みのあるシェイクスピア初期版本の閲覧および画像採取のための海外出張を予定の回数どおり実施することができなかったため、次年度使用額が生じました。次年度の海外出張旅費の一部として使用する計画です。
|
