2015 Fiscal Year Research-status Report
異文化空間としてのトランスパシフィック―アジア系アメリカ文化の太平洋横断的展開
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15K02362
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
麻生 享志 早稲田大学, 国際教養学術院, 教授 (80286434)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | トランスパシフィック / アジア系アメリカ文学 / トランスカルチャー |
Outline of Annual Research Achievements |
1. 資料調査 カリフォルニア州立大学バークレー校、サンタバーバラ校、アーヴァイン校にて、1970年代から今日に至るアジア系アメリカ文化の形成、発展に関する資料調査を行った。主たる調査資料は 1) Gidra, Los Angeles 1969-74. Periodicals; 2) Yellow Pearl, New York: Basement Workshop, 1972; 3) “Guide to the Asian American Theater Company Archives, 1973-1993” (CEMA 9); 4) “Guide to the Vietnamese American Arts and Letters Assciation Collection” (MS.SEA.026) ; 5) “Guide to the Micael Merrifield Files on Southeast Asian Community Resettlement in Orange County” (MS.SEA.041) . 以上の資料の多くは今回調査にあたった図書館のみが所蔵し、現在アジア系アメリカ研究で注目を集める Asian American Movement(1960年代後半から1970年代にかけて、ニューヨーク、ロサンゼルス、サンフランシスコを中心とするアメリカ主要都市で起きた社会運動)の詳細を知る上で重要なものである。 2. 論文発表 アジア系アメリカ文学研究会が発酵するジャーナル AALA Journal, No. 21 (2015)に研究論文「異文化空間としてのトランスパシフィックールース・オゼキ『あるときの物語』における多世界構造について」を発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
カリフォルニア州立大学バークレー校、サンタバーバラ校、アーヴァイン校での資料調査では、予定していた資料調査を概ね完了することができた。調査にあたっては、デジタル・メディアによる保存を試みた。Gidra や Yellow Pearl といった今では入手不可能な一時資料にあたることができたのは大きな収穫であり、同時に1970年代や1980年代のアジア系コミュニティーの様相を伝える歴史資料は日本では決して触れることができないものであった。ただし、こうした資料のほとんどは新聞・雑誌、あるいはマニュスクリプトやパンフレット等であり、一部には保存状態のよくないものがあった。こうしたものについては書き写すなどより時間をかけた調査が必要で、今後研究を進めていく上で再調査を行う予定である。 一方、アジア系アメリカ文学研究会では、AALA Journal に査読付き論文を掲載することになった。これは日系アメリカ人女性作家ルース・オゼキの小説『あるときの物語』に関する論考で、太平洋を挟み日本とカナダ西海岸で展開する二つの語りがもつ重層性と複層性をポストモダニズム的視点を交え分析したものである。本研究プロジェクトのなかで基礎となるべき研究である。 また、同研究会が主催する2016年度フォーラム(9月開催予定、於・神戸大学)では、環太平洋地域を横断的に展開する近年のアジア系文学について、慫慂発表の機会を得た。これまでの研究成果をもとに今後の研究の発展につながる発表を計画中である。 以上のことから、初年度の研究は概ね予定通りに進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
太平洋横断的な作風をもつ作家・アーティストへのインタビューを実施することで、なぜ今「トランスパシフィック」な文化・文学が注目されるのかを制作者の視点から調査することを予定している。 昨年度終了した基盤研究C「ポストモダニズム以降の文化研究―文化翻訳の実践とベトナム系アメリカ文化」(仮題番号24520317)において翻訳を行った The Lotus and the Storm の作者 Lan Cao、The Sympathizer (2015)で今年のピューリッツァー賞を受賞した Viet Thanh Nguyen、映像アーティストの Viet Lee らが主たる対談者となる予定である。 ただし、インタビューを取るには、相手方の予定に大きく左右されることが多い。よってインタビューの実施が難しい場合には、またインタビューが可能な場合にもそれと並行して、初年度同様 Asian American Movement に関する資料調査を進めていく予定である。調査地としては、アジア系文化・社会関連の資料を多く所蔵するカリフォルニア州立大学系の図書館が中心になるであろう。また、個人の研究者やアーテイストが資料を保存しているケースも少なからずあり、そういった資料にも可能な限りアクセスしていきたい。 以上の調査・研究を基礎に、現在環太平洋地域で既存の文化を横断する形で展開する文化、すなわちトランスカルチャーの在り方とその文化的、及び倫理的な意義の分析をさらに進めていきたい。
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Causes of Carryover |
本年度に購入を予定していたPC、及びその周辺機器について、適当な機材が見当たらなかったことから、次年度以降に購入を延期することにした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
適当な機材が発売されれば、予定通りにPCを購入する予定である。
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