2015 Fiscal Year Research-status Report
文芸事象の歴史研究 ―論争文学と虚構文学の歴史理論の構築をめざす境界領域研究
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15K02381
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
野呂 康 岡山大学, その他部局等, 准教授 (70468817)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 論争 / パスカル / ジャンセニスム / プロヴァンシアル / アウグスチヌス / 頻繁なる聖体拝領について |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は三年間の継続研究が予定されており、本年度はその一年目にあたる。申請時には、全体の研究計画として次の四段階を設定した。 1.フランス国立図書館(BNF.)とインターネットによる調査をへて,論争文書の収集と列挙を行う. 2.テーマ別,論争系統別分類表の作成 3.欠落文書の探索 4.政治史,論争史,社会史等の研究者との意見交換と共同の研究会の組織,シンポジウム等の企画 初年度である本年は2.の段階までを目標に据えていた.本年度取組んだ論争としては「初期ジャンセニスム論争」(1640年代)と「『プロヴァンシアル』論争」(1656年以降)の二つが挙げられる.まず前者に関してはかなりの数の論争文書を網羅し,系統,年代順に整理することができた.論争研究では,(主要な論点や,主題を逸脱した論点など)枠組みの設定次第で文書の数や系統は大きく異なることになるが,『アウグスチヌス』および『頻繁なる聖体拝領について』関連の文書に関しては大方参照し検討した.その成果の一部は年度内に執筆した2本の論考により公にしている(1本は印刷中).「『プロヴァンシアル』論争」には思想家パスカルの協力した文書が関係しているだけに,関連文書は膨大であり未だ必読文献を読破しきれていない.しかしフランスの文学研究者オリヴィエ・ジュスランの著書において直接関連した文書だけは網羅されており,それを基に論争の外枠は把握することができた.残された課題は前述の通り枠組みの設定である.これについてはパスカルの思想における論争の位置づけという視点からアプローチすべく,本年は多くのパスカル研究者と討論する場を持った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」欄に記したように,本年度取り上げた二つの異なる論争のうち,「初期ジャンセニスム論争」については,概ね計画通りの進度を得た.来年度は予定通り3.欠落文書の探索に力を入れたい.もう一方の「『プロヴァンシアル』論争」については,論争の発端となった「リアンクール事件」も視野に入れつつ,論争の枠組みを設定すること,そのような論争の枠組みの中に,パスカルのテクストと関連文書を位置づける作業が必要となる.その意味では2.の分類表の作成作業からの逸脱を余儀なくされた.しかし,多くのパスカル研究者と討論する場を持つことにより,『プロヴァンシアル』という論争書に直接関連した文書をまとめるだけではなく,パスカルの思想,執筆方法,特徴なども論争研究に取り込む糸口が見え始めた.こうした視点を獲得することにより,具体的なテーマ(例えば,「良心例学」や当時の道徳,教導など)の分類表の作成よりは,執筆時にパスカルが意識していた論敵や思想の系譜に踏み込むことの重要性が見えてきた.それゆえ,来年度は予定通り,パスカルと論争関連文書の文脈で3.欠落文書の探索に進むことができるだろう.
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Strategy for Future Research Activity |
今年度得た「初期ジャンセニスム論争」の関連文書と,年代・系譜一覧を用いて,初期ジャンセニスムと特に出版の関係に踏み込んだ論考を執筆する予定である.また「『プロヴァンシアル』論争」についても,主要研究書の読破を目指しつつ,関連文書の情報収集に務めたい.こうした作業により,今年度はパスカルのテクストと出版メディアの関係についても調査し,これまでに収集した論争文書との関連性にも踏み込んで考察する. 以上が論争という具体的な主題をめぐる研究であるが,本課題のもう一つの軸である虚構文学の歴史性に関しては,実は3.の段階を通り越して,具体的に4.の段階にまで達している.年度末にまずは日本の研究者に呼びかけ同意を得た上で渡仏し,フランスの研究者との共同研究の約束を取りつけてきた.今後残りの2年間を用いて,上記論争研究を継続しつつも,メール等のやり取りを通じて共同研究を進め,再来年度(最終年度)の秋にその成果を公けにすべく日仏共同の研究シンポジウムを開催する計画をたてている. 前述の通り,個人的な論争研究と共同研究の二本柱で研究を進め,その成果発表として二カ国間シンポジウムを開催することから,最終年度に要する費用が当初の想定を超える可能性がでてきた.それゆえ,研究に支障のない範囲で来年度(平成28年度)予算の一部を次年に繰り越すことを予定している.繰越金及び次年度のほとんど全額をフランスの研究者の招聘とシンポジウム開催に用いることにしたい.
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