2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K02393
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
郷原 佳以 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (90529687)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ジャック・デリダ / 灰 / 自伝 / 供犠のエコノミー / フィクション / 記憶と記録 |
Outline of Annual Research Achievements |
デリダにおける「自伝の脱構築」のありようを明らかにするという本研究の目的に沿って、平成29年度は主として以下の研究を行った。 (1)1990年前後からのデリダにおける宗教的なものの主題化と自らのユダヤ性に触れた自伝的テクストの増加との並行的な関係について精査し、デリダが全世界に深く根づいたユダヤ・キリスト教的な「供犠のエコノミー」を問題視していることを示すとともに、晩年のデリダが自らを「最後のユダヤ人(もっともユダヤ人的ではないユダヤ人)」として指し示したことの理由を明らかにし、「デリダはなぜ自らを「最後のユダヤ人」として提示したのか――あるいは、キリスト教的エコノミーをいかにかわすか」として発表した。また、同様のキリスト教的論理の問題視が晩年の死刑論講義の一つの大きな軸であることを検証し、「ダイモーンを黙らせないために――デリダにおける「アリバイなき」死刑論の探求」として発表した。さらに、デリダが動物たちとの単独的な関係を語った自伝的テクストや動物論批判との関係において、日本戦後文学における動物の表象についての著作を論じ、「非-主題としての動物」として発表した。 (2)理論的テクストにおいて虚構的要素や自伝的要素を読み込むデリダのテクスト読解と蓮實重彦のフィクション論との間に共通性を見出し、「理論のフィクション性、あるいは、「デリダ派」蓮實重彦」として発表した。 (3)前年度から引き続きデリダの自伝的・虚構的テクストに現れる「灰」の概念について記憶や記録、その複製や喪失との関係において考察を深め、《ミッション:インポッシブル》やレイ・ブラッドベリ『華氏四五一度』、吉増剛造『怪物君』等といった作品においてそれらの主題を読解し、「指呼詞を折り襲ねる――『怪物君』の歩行」やエッセイ「「僕がメモリだ」――メモリをめぐる「除籍者」たちの闘い」として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
デリダのユダヤ・キリスト教的エコノミーの問題視が彼の晩年の動物たちとの関わりをめぐる自伝的語りや「最後のユダヤ人」としての自己表象に繋がることを検証することができた。また、自伝的テクストにおける「灰」モチーフに注目することで、多様な文学作品や映画等における記憶と記録をめぐる問題との関連が見えてきて、様々な問題を論じることができるようになった。同時に、こうした検証を通し、デリダのエクリチュール概念について理解を深めることができ、他の批評家との関係を考える上でも役立っている。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)引き続き「灰」および記憶と記録、その複製や喪失といった問題について「プラトンのパルマケイアー」『絵葉書』『火ここに亡き灰』『割礼告白』といったテクストを検証する。 (2)上記の問題について、『メモワール』および晩年の講義録との関係において倫理的な問題も検討する。 (3)以上の検討、とりわけプラトン論の検討から浮き彫りになるデリダのエクリチュール概念について、ブランショのそれとの比較検討も行う。
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Causes of Carryover |
(理由)国際学会の開催が行われず、国内の学会で発表したため。
(使用計画)カナダ・モントリオールで行われるデリダ学会に参加し、発表する。プラトン関連、自伝関連の文献を収集し、調査する。
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Research Products
(7 results)