2016 Fiscal Year Research-status Report
18・19世紀転換期の身体表象 ― ヘルダー・ゲーテとパーフォーマンス芸術
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15K02401
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
武井 隆道 筑波大学, 人文社会系, 教授 (10197254)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
濱田 真 筑波大学, 人文社会系, 教授 (50250999)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ゲーテ / ヘルダー / 身体 / イメージ / Bild / イタリア / 彫刻 / エマ・ハミルトン |
Outline of Annual Research Achievements |
武井は、ゲーテの身体表象の把握と表現の事例として、『イタリア紀行』並びに『親和力』で扱われているアチチュードと活人画を中心に調査と考察を進めた。演者であるエマ・ハミルトンの事跡を追い、出生地のイギリス・チェシャー州、実演の場所であるナポリのハミルトン邸跡を訪れた。また折から2016年7月にドイツ・デッサウで行われたエマ・ハミルトン展を観覧し、資料を収集した。ドイツ・ヴァイマルのアンナ・アマーリア図書館にて、関連の資料を収集した。さらにイタリア・シチリア島にて、キリスト教宗教施設の諸表象や古代建築を直に見学し、ゲーテの『イタリア紀行』における記述と照らし合わせ、彼の身体イメージや空間把握の特徴を考察した。またゲーテが論考の対象としている彫刻作品を、ナポリ考古学博物館とローマ・ヴァチカン美術館で見学した。これらの調査から、ゲーテが生身の身体の具体的な空間における存在性の上に、徐々に記号としての装飾的イコノグラフィーを重ねていくようになる経緯が浮かび上がってきた。 濱田は、18世紀後半の身体表象の問題を探るにあたって、現在ドイツの芸術論でも注目されているBild(形象・画像・イメージ)という言葉を手がかりにして考察を進めた。特にヘルダーの中期の論考『形象と詩と寓話について』のなかでBildという言葉がどのような意味で用いられているかを、18世紀後半の芸術論や詩学の議論を踏まえて明らかにした。そして、身体表象の問題がBildの議論と重なりながら、感覚論・時間論と結びつくあり方を探った。同時に、ヘルダーにおいては身体表象がメディアのあり方と密接に関係することに注目して、古代ギリシア・ローマの彫刻作品とその受容の問題について、主としてヘルダーとヴィンケルマンの関係を手がかりに考察を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記「概要」に記した通り、文献による考察と実地調査とを並行して進めた。当初考えていた見学や文献収集がおおむね実行できている。考察については、まだ論文執筆段階にはないものの、当初の仮説をより深化させるポイントがいくつか把握できている。 武井はゲーテの古典主義的身体観の形成における、身体や空間のリアルな把握に加えて、18世紀バロックの遺産である装飾的、記号的表象の果たした影響を分析し、ゲーテが見聞した具体的な場所に置いて、記号的空間・身体がどのように立ち上がってきたかを探った。 濱田は身体表象の問題について、18世紀後半の芸術論を手がかりにして、時間性と感覚性の議論を中心に考察を進めた。特に、ヘルダーの芸術論において視覚・触覚・聴覚についての議論が身体表象および時間性の問題とどのように関わっているのかを、『第四批評論叢』および『彫塑』を中心に探った。特に2016年度は、ヘルダーにおける身体表象の特質を、中期の作品『形象と詩と寓話について』のBildの問題を手がかりにして考察し、さらにヴィンケルマンとヘルダーとの関係について、古代ギリシア・ローマの彫刻作品の受容のあり方に目を向けて調査を進めた。
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Strategy for Future Research Activity |
2017年度は、これまでの成果をもとに、討論会、シンポジウム等を通じて考察を深めたい。ドイツから関連領域の研究者を呼んで研究会を催す予定。また、筑波大学において、国内研究者による討論会を開催する予定。 武井は、2017年度にはゲーテの彫塑論、絵画論と『イタリア紀行』とを比較しつつ、身体における現実と虚構の矛盾と止揚がテクストにおいていかに現れているかを分析したい。 濱田は、ヘルダーの思想における身体表象の問題を感性論・時間論・メディア論の議論を手がかりとして明らかにし、それが18・19世紀転換期の身体表象の議論にどのように接続するのかを提示することを課題としている。今年度は、ヴィンケルマンに注目して、彼とヘルダーのギリシア観や歴史記述のあり方を比較することで、18世紀中葉から後半にかけてどのような身体表象の変化が生じたのかを明らかにしたいと考えている。その際、ドイツ・ハレ(Leopoldina Akademie, Interdisziplinaeres Zentrum fuer die Erforschung der Europaeischen Aufklaerung)の研究者(Prof. Dr. R.Godel, Prof.Dr.E.Decultot)とも適宜意見交換をして考察を進めたい。
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Causes of Carryover |
資料整理のための補助者に対する人件費を予定していたが、研究者自身で実行したため支出しなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2017年度に予定しているシンポジウムの実施経費の一部として使用する。
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