2016 Fiscal Year Research-status Report
両大戦間期ドイツ児童文学における都市ベルリンの表象についての研究
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15K02411
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
佐藤 文彦 金沢大学, 歴史言語文化学系, 准教授 (30452098)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ドイツ文学 / 児童文学 / ベルリン / 両大戦間期 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究実績としてまず挙げられるのは、本研究が取り扱う両大戦間期ベルリンを舞台としたドイツ児童文学に関する二次文献、とりわけ当時の子どもの生活・社会環境に関する社会学的調査資料と児童文学の出版状況に関する先行研究が、集中的かつ網羅的に収集されたことである。本研究が単に文学テクストの分析で終わるのではなく、その背後に拡がるモダン都市空間の光と闇の抽出をも目指す上で、この作業は欠かせないものであったため、貴重な資料を一括して収集・分類・整理できた意義はきわめて大きい。 これらの資料を体系的に所蔵する機関が国内には存在しないため、購入が困難な文献については、ドイツ国立図書館(フランクフルト)およびベルリン州立図書館において、閲覧および複写という形で収集することができた。これらの機関への訪問を通じて、代表者にとってこれまで未開拓だった当該分野の研究書や研究論文にも数多く当たることができた。具体的には、ベルリン児童文学の諸相を作家の政治的スタンスの違いからのみ論じるのではなく、作品に描かれたジェンダーの視点から論じる可能性の是非など、本研究を多面的に遂行するための方法論について再検討する絶好の機会となった。以上の観点から、本年度の資料調査旅行はたいへん有意義なものであったと言える。 その一方で本年度は、雑誌論文あるいは学会発表という形で本研究の成果を公表することはできなかった。しかし、研究計画段階から構想していたケストナーと同時代のベルリン児童文学を比較考察する試みに関しては、本年度中にテクストの精読および分析を終えることができた。そこに本年度に収集された二次文献を援用することで、作品内在解釈と両大戦間期ベルリンの都市社会学研究を融合させた研究成果を、次年度(最終年度)には公表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、両大戦間期のドイツ児童文学に描かれた同時代の都市ベルリンの表象と、そこに生きる子どもの生活・社会環境の実態の解明を目指すものである。二年目に当たる本年度は、主として当時の「子ども社会学」およびその後の都市社会学の研究成果と、児童文学出版状況についての先行研究を網羅的に収集することはじゅうぶん達成された。また、すでに集められた一次文献の精読と考察(テキスト内在解釈)もほぼ完了している。当初の計画では、これらの作品分析に加え、作家の雑誌ジャーナリズム活動の把握をも目指したが、この計画の完了は次年度に持ち越されることになった。しかし、研究目的全体の達成に向けては、おおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度までに完了した一次文献の精読・考察・分析結果と、本年度に収集された両大戦間期ベルリンの都市社会学および子ども社会学における先行研究成果の融合は、最終年度に行うべき最重要課題と考えられる。加えて同時代の児童文学の出版状況や、作家自身の雑誌ジャーナリズムへの関与など、作品そのものを取り巻く周辺事情にまで視野を広げることができれば、よりふくらみのある研究成果がまとめられるはずである。必要な文献はほぼ集まったが、成果をまとめる最終段階で生じる(かもしれない)文献の不足については、可能な限り新規に、そして早期に収集を行いたい。 これまで同時代の複数の作品に共通して見られる特徴や、対照的な特徴を抽出する際、とくにコアとなる二作品を比較するつもりでいた。しかしこれまでの研究を踏まえると、ケストナーを中心に据えてより左右に振れた三作品のトライアングル構造を提示したほうが、より立体的な論旨を展開することができるのではないか、と思うにいたった(例えば子どもが活動するベルリンのトポグラフィーについての分析や、行き過ぎた資本主義市場に対する子どもたちの対応など)。もっとも、それは本研究成果を公表する媒体(学会口頭発表や雑誌論文)との関係で制約もあろうが、事前に選定した五作品を同列に並べて論じるのではなく、めりはりを付けて論じる工夫は続けたい。その結果、複数の作品を横断的に扱うことで、子どもの視点から見た近代都市空間を多面的・多角的に再構築するという本研究の最終目標には、着実に到達するつもりである。
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Causes of Carryover |
ドイツでの資料調査旅行が次年度をまたぐ形で行なわれたため。したがって本年度の未使用額(繰越額)は、次年度の初期段階において(すでに)消化された。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度に購入できなかった文献および今後の研究計画遂行の過程で生じるであろう不足文献は、可能な限り早期の購入を目指す。その他、最終年度の研究成果公表のための旅費を中心に、研究費を使用する予定である。
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