2017 Fiscal Year Annual Research Report
A study of Berlin in the German children's and youth literature during the interwar period
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15K02411
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
佐藤 文彦 金沢大学, 歴史言語文化学系, 准教授 (30452098)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ドイツ文学 / 児童文学 / ベルリン / 両大戦間期 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究実績として挙げられるのは、両大戦間期ベルリンを移動する子どもたちが登場・活躍する諸作品の分析結果を2度にわたる学会発表という形で公表できたことである。その際、先行研究がもっぱらケストナーの作品にのみ注目してきた反省を踏まえ、ケストナーと同時代の他の作家の作品にまで考察の対象を拡げることで、従来の研究成果の書き換えを目指した。具体的にはケストナー『エーミールと探偵たち』(1929)とドゥリアン『木箱から現れたカイ』(1926)の少年主人公が市電や地下鉄で移動するベルリンの都市空間を解析し、両作品とも新興のベルリン西部を主な舞台とした点は共通するものの、後者では北部の労働者街に住む孤児の生活状況までもが描かれる点、さらにベルリン西部の移動が『エーミール』より詳細かつ広範囲にわたる点に独自性を見出した。続いてウェディング『エデとウンク』(1931)を取り上げ、父の失業を機に少年主人公が『カイ』よりもっと北の貧しいベルリンを(自転車で)移動することで共産主義に目覚め、ジプシー差別の現実を知る社会性を指摘した。これら三作品の少年主人公が新聞を読み電話を利用することで移動せずとも情報を収集できる都市型生活様式を獲得している点は共通する。最後にエルフケン『ニッケルマンのベルリン体験』(1931)を手がかりに、両大戦間期ベルリンの少女の移動を追跡した結果、少年ほど大きな移動はしないものの、やはりベルリン西部が重要な外出先であることが判明した。その際、デパートのバーゲンで万引きする婦人など、移動する少年とは異なる少女の視点から都市の暗部が書き込まれている。これらの例から、両大戦間期ドイツ児童文学は大都市ベルリンに対し柔軟で開放的な、たくましい子ども像を提示した点に歴史的意義があり、同時代の大人の文学が都会で疎外される人間を好んで描いたのとは決定的に異なることがわかった。
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