2015 Fiscal Year Research-status Report
音素は本当に知覚されているのか?―音素・音節並列処理モデルの検討―
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15K02493
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
石川 潔 法政大学, 文学部, 教授 (10287831)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 心理言語学 / 音声知覚 / 音素の実在性 / 音節構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
音素知覚における音素配列制約の効果の説明として、「音素知覚の次に音節が構築される」という説(=A)、「音節のみが知覚される」という説(=B)、「音素と音節が同時に知覚される」という説(=C)があり得る。Dupoux et al. (2011) は、Aに反論しBを主張したが、研究代表者は Ishikawa (2014) で、Cの可能性を指摘した上で、「Aは確かに支持できないが、BとCの両方の可能性がある」と主張した。本研究計画は、BとCの優劣を決定するためのものであった。 しかし、本研究計画の開始後まもなく、出版直前の松井 (2015) を入手した。松井は、Dupoux et al. (2011) も Ishikawa (2014) も想定していなかった新たな異音概念を主張したが、本研究計画での問いに翻訳すれば、実質的にはAを主張していると言ってよい。松井は、BやCよりもAを採用すべきだという証拠になるデータは特に示していないが、確かにそのような異音概念は論理的に可能である。そして、もしその主張が正しいなら、本研究計画の前提が変わる。なので、本来の計画からは外れるが、初年度においては、松井の音素概念の妥当性を検討する実験を、日本語話者を被験者として実施した。その結果、松井の新たな異音概念が支持され、Dupoux et al. (2011)、Ishikawa (2014) などの実験結果の解釈として適切なのは「BまたはC」ではなく「AまたはC」であるという結論に達した。 その実験結果は、現在、学術雑誌に投稿中である。また石川 (2016) で、その実験結果のごく一部を述べつつ、(新規な説である)Cの可能性の検討の必要性を改めて指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
A~Cという3つの説がある状況で、本研究計画の目的がCの妥当性の検討であることは変わっていない。しかし、詳細が変化した。つまり、当初は「Bに対するCの優位性の検討」を行なう予定だったものが、予定されていなかった初年度の実験結果から、それが「Aに対するCの優位性の検討」に変わった。その結果、本研究計画の実験設計も大幅な変更を被ることになった。
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Strategy for Future Research Activity |
新たに実験設計を行なうことになったが、音素検出課題の実験から、音節構造のプライミングの実験に変更するという方針は、既に決まっている。この新たな実験の詳細の設計をほぼ終えており、現在は具体的な刺激の選定に入っている。 なお、この新たな実験計画の方針のもと、改めて先行研究を検討した結果、当初の見込みと異なり、実験は必ずしもフランス語である必要はなく、英語でも可能である見込みなので、刺激の録音や実験の作成に要する時間は当初計画よりも大幅に短縮できるはずである。 今年度の前半中に実験作成を終える予定である。 また、英国エディンバラ大学での実験実施を、今年度の夏から後半に予定している。
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Causes of Carryover |
当初予定していた実験(以下、実験1)の前に、研究計画で予定されていなかった実験(以下、実験0)を実施することになった。実験0では、本研究計画以前に録音済みだった刺激が再利用できたために刺激作成のための金銭支出が不要であり、かつまた、日本語話者を被験者とする実験だったこともあり、科研費からの支出なしで被験者を集めることが出来た。そのため、実験0では、実験ソフト以外の金銭支出が不要であった。他方で、金銭支出が必要な実験1の作成が遅れた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度の前半に実験作成を予定しており、そのために「次年度使用額」を使用する予定である。また本年度の後半に実験実施を予定しているが、当初の予定における今年度使用分は、そのためにあてる予定である。
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