2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K02561
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
沖 裕子 信州大学, 学術研究院人文科学系, 教授 (30214034)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西尾 純二 大阪府立大学, 人間社会学部, 教授 (60314340)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 対照談話論 / 日中対照 / 依頼談話 / 異文化接触 / 母語干渉 / 方言談話 / 終助詞 / 結節 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究に関する具体的内容は、次の2点である。 第1には、中国語母語話者の日本語依頼談話に談話レベルの負の転移があることを明らかにし、それをふまえて日本語教育方法への提言を行った。まず、中国語母語話者が産出する日本語依頼談話には、共通した問題点があることを指摘し、その要因を発想と表現から説明した。日本社会では、依頼は相手に迷惑をかけることだと考えるのに対して、中国社会では互恵的に依頼をする文化がみられ、依頼は人間関係を強化する望ましい行動だと考えられていた。こうした社会文化と意識態度が、依頼談話の内容や表現にも影響をあたえ、間接的な内容構築と表現で展開する日本語依頼談話と、依頼の要点を明確に述べる直接的な内容構築と表現で展開する中国語依頼談話の差を生んでいた。そのため、談話的に負の転移が起きること、日本語教育においては、社会文化、意識態度、談話構造、談話表現の4層にわたって注意しながら指導する必要性を指摘した。談話レベルの母語干渉が存在することを実証的に指摘したこと、新たな日本語教育方法の開拓を提言したことに、意義と重要性があると考える。 第2には、日本語方言変種の対照から、終助詞文の発想と表現の記述を行った。表現レベルにおける音声、語彙、文法、談話の同時結節観を用いて、東京共通語と松本方言を対照し、日本語文法においては、終助詞と述語のムードが同じ類型をもつことを実証した。表現レベルの同時結節観の方法的有効性を確認できたこと、また、日本語談話の発想と表現にかかわる重要な結節のひとつである文末ムードについて新知見を述べ、記述成果をあげえたことに意義と重要性があると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究成果については、予想以上に進展した点、順調に進展した点、やや遅れている点の、いずれもがみられた。 外国語と対照させた日本語の発想と表現の研究においては、同時結節観に立った日中依頼談話の記述について、十分な成果をあげえた。その成果を日本語教育への応用につなげて提言できたため、中国における日本語教育方法の開発に一定の寄与ができたと思われることは、予想以上の進展である。 それに対して、日韓談話の発想と表現の対照研究は、有効な分析観点の抽出がやや遅れている。しかしながら、今年度は、なぜ分析が困難になるのか、その理由の把握ができた点は前進であった。 国内の方言変種の対照による日本語の発想と表現の研究については、おおむね順調に進展している。言語表現における、音声、語彙、文法、談話の同時結節観を用いることによって、従来とは異なった視点から記述的成果をあげえた。日本語は文末に発話者の意図がよくあらわれ、この結節点が、談話全体の発想と表現に与える影響は強いと考えられるが、東京共通語談話と松本方言談話を対照させることで、文末の終助詞の性質を再考することができた。文末イントネーションと終助詞のムードを関係づけた記述は、文法論、談話論の両者において新知見を提示しえたと考える。また、日本語談話の発想と表現の特徴を抽出するための基礎的研究ともなった。
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Strategy for Future Research Activity |
日本語談話の発想と表現の研究をさらに推進するために、当初目的とした次の3点を意識しながら行っていきたい。すなわち、日本語談話の特徴を対照談話論をもちいて記述整理すること、談話記述において用いる方法論を開拓し資料論を整備すること、また、日本語談話の発想と表現との関係を記述説明する、ということである。 これらの目的を達成するために、引き続き、外から日本語をみた対照研究と、内にある日本語変種間の対照研究とを、同時並行的に進め、複眼的に着眼点を得ていきたい。 まず、外からみた日本語の研究は、次のように進めたい。3言語(日韓中)対照を推進してきたが、方法論的には、2言語(日中、日韓)対照で行ったほうがよい見通しを得た。この点を変更して研究を推進しつつ、3言語対照の可能性と長所についても、ひきつづき検討を続ける。 また、国内の方言変種の対照研究については、同時結節観の方法論的有効性を生かし、継続して行いたい。文末ムードは、日本語談話の発想と表現の研究において重要な観点であるため、終助詞の記述を重点的に進め、日本語談話の発想と表現の特徴の抽出につなげたい。また、敬語現象が終助詞とも関係している予測を得たため、これについても次年度は考察を広げる予定である。敬語を同時結節の観点から再考することは、新たな方法による記述内容の提示につながるであろうと考えている。また、対象を敬語にも広げることは、ポライトネスという考え方の再考にもつながっており、談話における発想と表現の関係を説明するための重要な観点をくわることになると考える。
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Causes of Carryover |
予定していた海外共同研究者との研究打ち合わせが、諸事情により繰り延べになったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
海外共同研究者との研究打ち合わせと、その後の分析、検証、成果発表のために、平成29年度請求額とともに使用する予定である。
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