2016 Fiscal Year Research-status Report
楽浪郡存続期における鉄器と玉類の流通網及び技術移転に関する包括的研究
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15K02972
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
中村 大介 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 准教授 (40403480)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田村 朋美 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 埋蔵文化財センター, 研究員 (10570129)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 楽浪郡 / 鉄器 / ガラス / 交易 |
Outline of Annual Research Achievements |
2016年度は、①朝鮮半島の鉄器の変化、②ガラス製品及び小玉の理化学的分析、③碧玉製管玉の分析を中心に研究を推進した。加えて、④長距離交易土器を扱い、それらを基に楽浪郡存続期の交易網とその変化の復元を試みた。 ①については、鉄器の集成だけでなく、日本列島の鉄器生産にも関連する塊錬鉄による鍛造鉄器がいつ朝鮮半島に現れたのかの検討を行った。現時点で金属学的に分析された資料は2世紀後半以降の資料であるが、考古学的な脈絡と総合すると弁・辰韓(東南部)で1世紀後葉からそうした鉄器が出土する可能性が高い。これは弥生時代後期後半に該当し、朝鮮半島製とみられる鉄器の増加に一致しており、それ以前の楽浪郡経由の鉄器流通から弁・辰韓を中心とする交易に変わったことを意味している。 ②については、ベトナムにポータブル蛍光X線分析装置を持ち込み、前2世紀~後2世紀のガラス製品の分析を行った。日本列島の資料との比較は現在遂行中であり、2017年度に結果が出る予定である。また、③については、弥生時代後期後半の最大の墳墓である吉備地域の楯築遺跡、鉄器を多くもつ丹後地域の大風呂南1号墓の碧玉製管玉の分析を行った。その結果、楯築遺跡では朝鮮半島産とともに但馬産が確認された。大風呂南1号墓では北陸産を中心とする結果が出ている。この時期は前述したように鉄器流通が大きく変わる時期であり、玉類の流通についても複雑化することが判明した。 上記の結果に異なる視点を加えるため、④として環東シナ海・黄海で広域の流通する大型甕の集成と分析を行った。楽浪郡でみられる大型甕は1世紀中頃までは山東半島から流通する白色甕が中心であったが、2世紀には長江下流の江南地方の土器がもたらされるようになる。これらは日本列島まではもたらされないが、弥生時代後期後半には日本列島と朝鮮半島だけでなく、東アジア全体で流通に変化が生じることが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
鉄器の検討については資料を蓄積しつつ、併行して交流網の復元に努めた。鉄鉱石を産出する朝鮮半島南部の弁・辰韓の動向が歴史的に重要であるため、この地域の鉄器の変化を中心に分析を進めている。現在は、①原三国時代早・前期(楽浪郡成立前後)、②原三国時代後期、③三国時代という段階で副葬鉄器が変化すると認識している。①の段階では燕系統の鍛造、鋳造鉄器を大量に副葬するようになり、②の段階でおそらくは塊錬鉄からなる板状鉄斧を大量副葬するようになる。③の段階では板状鉄斧から鉄テイに型式変化し、やはり大量副葬がみられるだけでなく、武器、防具類も増加する。②の段階は日本列島でも鍛冶技術が大きく進歩する時期にあたり、弁・辰韓との関係が推定されるが、問題は塊錬鉄生産の技術の由来が不明瞭な点である。近年ではモンゴル高原の匈奴の製鉄が直接製鉄であることが明らかになったことから、楽浪郡の成立以降の遊牧民の動向を把握する必要が生じてきたといえる。鉄器自体を切断して分析することは困難であるので、分析の増加をまちつつ、別の遺物の流通から検討を深めることが今後の課題である。 ガラスについては上述したようにベトナムでポータブル蛍光X線による分析を分担者とともに行った。対象としたのは、ベトナム北部のドンソン文化と漢墓出土資料、ベトナム中部のサーフィン文化出土資料である。まだ詳細な結果は出ていないが、紀元後1世紀から増加する朝鮮半島と日本列島のガラス小玉と共通するものがある一方、これらの地域にないものもみられる。正確な分析データが出たのちに、ガラスの流通についても復元を試みる予定である。 以上のように、分析は順調に進展しており、基本的な資料収集と流通網の復元はほぼ見通しが立っている状況である。ただし、鉄の流通については環東シナ海・黄海と中国本土を通じた技術や流通だけでは、当時の状況を復元できないことも判明してきた。
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Strategy for Future Research Activity |
2017年度以降も積極的にガラスを含めた玉類の分析データを増加していく予定である。現時点で、いくつかの資料を保有する調査機関に分析依頼を行っており、上手く進展すれば、弥生時代後期から古墳時代前期の日本列島の玉類の流通を把握できるようになると考えている。 また、進捗状況の項でも述べたように、中国本土と環東シナ海・黄海の流通の把握だけでは、当時の流通網と技術移転の実態解明においてやや不足する部分がある。北アジアに広がる草原地帯との交流の実態解明も併せて行う必要が生じてきたといえる。そのため、2017年度以降は、匈奴とそれ以前の資料を把握し、大興安嶺の東西の交流についても検討を深めたいと考えている。そこで、2016年度に予備調査を行ったモンゴル国トゥブ県のホスティン・ボラグ遺跡で該当する時期の墓の調査を行い、一次資料自体の増加を推進する予定である。 また、楽浪郡には環東シナ海・黄海、いわゆる海のシルクロードを通じてやってきたとは考え難いガラス小玉も含まれているが、近年の調査で匈奴の墓から同種のものが出土していることがわかった。そのため、ベトナムで行ったポータブル蛍光X線分分析装置によるガラス分析をモンゴルでも行う予定である。こすいたガラスをはじめとする楽浪郡と草原地帯の交流は、鉄の技術の流れとも関連すると予想され、総合的な流通網の復元において重要であると考えている。
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Causes of Carryover |
2016年度に予定していたポータブル蛍光X線分析装置を用いた調査の一つが、所蔵調査機関の意向により、実施することができなくなった。そのため、調査費用の約100,000円が使用できなかった。調査日の内訳は2人(中村大介・藁科哲男)の移動費30,000円, 宿泊費60,000円(2人×3泊×100,000円),分析雑費10,000円である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2016年度に調査依頼した調査機関は、再開可能のめどがたっていないため、新たに2017年度のモンゴルでの調査で、経費として使用する予定である。発掘の際に出土する遺物の分析費にあてようと考えている。ただし、分析が必要な出土遺物がない場合も予想されるため、その場合、2017年度にモンゴルにおいて実施する予定である、ガラスの理化学的分析の分析費用として使用したい。
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