2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K02994
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Research Institution | Hanazono University |
Principal Investigator |
高橋 克壽 花園大学, 文学部, 教授 (50226825)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 古墳分布 / 古代交通路 / 家形埴輪 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究計画2年目の28年度には、すでに発掘調査と資料調査を遂行した福井県若狭町藤井岡古墳との対比上、重要な藤井岡三昧古墳に対する調査を行った。本古墳はこれまでの我々の踏査により、その墳丘頂部平坦面に家形埴輪が古墳築造当初の位置を保ったまま遺存していることがわかっていた。当該地域はもとより、このような古墳の遺存状況のよいものはたいへん貴重なものであるため、世界測地系の国土座標での古墳とその出土位置の測量を50分の1の縮尺で行った。また、家形埴輪の出土状況については、5分の1の縮尺で図化した。また、原位置に残っている家形埴輪片の周囲に散乱している破片は記録後取り上げ、その後、研究室にて基礎的整理を行った。 この藤井岡三昧古墳に対しては、測量調査に加えて、一部発掘調査を行う予定を立てていたが、土地所有者の承諾が得難かったこともあり、さらなる調査は断念した。 そのかわり、藤井岡古墳、藤井岡三昧古墳のある若狭町旧三方町エリアにおける古墳の分布調査と踏査を2度にわけて行った。これは、植物の繁茂に邪魔されない冬期に実施した。 その結果、当該地域では、上記2古墳に加えて、周辺には権兵衛古墳という円墳が直径15~20mほどの規模をもち、葺石も備えた重要古墳であることがわかった。この古墳と藤井岡古墳の間にある南北の尾根筋にも、10m程度の直径をもつ古墳状の隆起を数基確認したが、上記3古墳とは規模も性格も異なるものと思われる。 また、さらに南の地域でも古墳の分布を確かめたが、その多くは横穴式石室をもつ後期古墳であった。ただし、白屋北山1号墳や双子山古墳は前期に遡る可能性があることが判明した。これらの分布から若狭から北へ向かう交通路の存在が予測された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は5世紀に築かれた若狭地域における中規模古墳を研究対象に選び、そこに見られる特性や大和政権からの影響がどのように移り変わるのかを調べることをに根幹に据えている。これまでのところ、5世紀前半の藤井岡古墳、藤井岡については、前者は墳丘に対する発掘調査及び埋葬施設を探る物理探査までし終えたが、後者は、測量と採集された家形埴輪の調査に留まっている。これは、調査に対する地権者の理解が十分に得られていないことにもよるが、可能であれば、理解を得て、再度藤井岡三昧古墳の発掘調査を試みたい。 いっぽう、その分、周辺への分布調査をしっかり行うことができた。それにより、地域での古墳の情報について新たな知見を多く得ることができた。とくに権兵衛古墳をはじめ、必要があれば、測量、そして発掘調査などを実施することが望まれる古墳がいくつか判明したことは今後の研究の方向性を決める上で意味あることであった。 さて、今後の調査は脇袋丸山塚古墳に対する発掘調査が予定されているが、同時期の類似した帆立貝式古墳については、すでに、全国的な規模で集成作業を開始しており、それらと比較できる発掘に基づく情報が期待されている。さらに、帆立貝式古墳と対比される方墳については、丹波地域の方墳について主として埴輪をもとに資料調査を実施してきており、その推移も明らかになりつつある。 このように、本研究の今後につながる研究は着実に進めていると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の3年目の29年度は、若狭で唯一の中規模帆立貝式古墳である脇袋丸山塚古墳について、発掘調査を実施し、さまざまな情報を得ることを主たる目標とする。本古墳は墳丘の測量調査はすでに完了しているが、墳丘そのものの確認調査は前方部前端において一度だけ試みられただけで、段築の様子や後円部の正確な形状、あるいはそこに巡らされる円筒埴輪列の情報や形象埴輪の種類などについては全くわかっていない。さらに、これまで採取されている円筒埴輪はわずかしかなく他の古墳のものと比較できる情報がない。そこで、まず、要所要所にトレンチを設定して墳丘、葺石、埴輪に関する知見を得ることが目指される。 それとともに、脇袋丸山塚古墳の前方部で存在が確認されている特殊遺構に対して、全面的な調査を実施したい。この遺構も、かつての調査では上面だけを検出しているに過ぎず、どのような構造で、内部にどのようなものが納められているのか、あるいは、埋葬に関わるものであるのかといったことすら不明なものである。その調査所見については、若狭地域で詳細な発掘調査報告が刊行されて間もない向山1号墳の前方部武器武具埋納施設との比較が求められる。 この特殊遺構から出土する各種製品についても、十分な資料調査を進める必要がある。とくに、金属製品や有機質の遺物に対しては、保存処理的な工程を経たうえで自然科学的分析も奈良文化財研究所との共同作業により進めていくことになる。 そうして得られた脇袋丸山塚古墳の総括的評価を、その他の帆立貝式古墳のデータや方墳の内容との比較で明らかにしたい。
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Causes of Carryover |
28年度に予定されていた藤井岡三昧古墳の調査は、測量調査のみの実施に留まり、それに続く発掘調査を実施できなかった。これは、発掘予定地区の地権者の合意が得られなかったことに起因するが、今年度以後も交渉を継続する予定である。それに替えて、地域の古墳分布調査を進めたが、経費の面で大幅に節約できた。このため、次年度使用額が生じたものである。 次年度は、脇袋丸山塚古墳の発掘調査を予定している。本古墳の調査は墳丘の形状と葺石や埴輪列に関する情報を集めることを目的とした通常のトレンチ調査に加え、前方部特殊遺構の手間のかかる調査があるため、人件費を主とする調査の経費が相当多くかかるはずである。また、出土遺物に対する化学分析も予算の中で試みたいので、次年度使用額はそれにも当てることも想定している。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
脇袋丸山塚古墳の墳丘については全長も含め基本的なデータが現状ではそろっていない。そこで、後円部後端や墳丘テラスなどに対して、トレンチを設定し、発掘する。併行して、前方部に存在する特殊遺構を解明するための発掘調査も進めるが、いずれも十分にこなすには、翌年度分として請求していた助成金では足りないことが見込まれていた。その足りない部分を補うことにまず充当したい。 いっぽう、調査次第で大きく状況は異なると思われるが、前方部特殊遺構からは、金属製品をはじめ、保存処理や化学分析が求められる遺物が少なからず出土すると予測できる。そのため、発掘調査経費が当初の予算範囲で収まったならば、そうして出土した遺物に対する処理や分析費用として有効に利用したい。
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Research Products
(4 results)