2016 Fiscal Year Research-status Report
二上山産サヌカイトの採掘・供給活動と石器生産システムの変動に関する通史的研究
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15K02997
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Research Institution | 公益財団法人大阪市博物館協会(大阪文化財研究所、大阪歴史博物館、大阪市立美術館、大阪市立東洋陶磁美術 |
Principal Investigator |
絹川 一徳 公益財団法人大阪市博物館協会(大阪文化財研究所、大阪歴史博物館、大阪市立美術館、, 大阪文化財研究所, 研究副主幹 (50204938)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | サヌカイト / 採掘坑 / 石器製作 / 石材原産地遺跡 / 二上山 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究は、おもに二上山サヌカイト原産地周辺地の踏査に重点を置き、それらの作業を集中的に実施した。対象地は春日山、柏峯、飛鳥川流域とした。まず、サヌカイトの噴出源である春日山一帯の産状調査を行うため、南西から西側山麓にあたる穴虫峠から柏峯、穴ヶ谷・新池から今池方面の踏査を複数回に分けて実施した。この地域は、大阪平野南部の羽曳野台地や河内台地、その周辺の沖積地に立地する旧石器から弥生時代にかけての石材消費地遺跡に対し、サヌカイトの供給を担った原産地遺跡群が分布する。春日山や株山の山頂部、サカイ遺跡や鶴峯荘遺跡がある二上山北麓の関屋盆地では、サヌカイト礫の採掘坑が認められるのに対し、春日山の西側山麓ではそのような遺構が現在のところ明確に確認されていない(もちろん調査事例が少ないことを考慮する必要がある)。山頂部の株山遺跡などは弥生時代の石槍・石剣等の未製品が伴う採掘坑が見つかっており、弥生時代になるとこうした大形石器のブランク製作に適した原礫の確保のために、山頂部の遺跡群で新たに採掘が始まった可能性が高い。近年、北西側の柏原市奥山遺跡でも弥生時代のサヌカイト採掘坑が見つかっているが、ここでも大形石器のブランク製作が主体的である。いずれにせよ、旧石器・縄文時代以前と弥生時代以降のサヌカイト製石器生産の違いを原産地遺跡の立地から検討していく必要がある。遺跡群の踏査とともに西側山麓部における遺跡群の形成過程を明らかにすることは、こうした石材採取行動の違いを解明するための重要なステップである。 その他、羽曳野市飛鳥川流域においてサヌカイト礫の産状調査を実施し、サヌカイト礫の採取を行うことができた。やや小振りな礫が多いものの、旧石器時代遺跡に持ち込まれたサヌカイト礫の形状に見合う原礫は採取可能と判断された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在のところ二上山北麓遺跡群を中心に複数回の踏査を実施して、サヌカイトの産状について観察・確認することができた。また、同様の作業は香川県国分台遺跡の周辺でも実施してきた。そのほか旧石器時代遺跡である羽曳野市翠鳥園遺跡の出土遺物の観察と検討を行った。この遺跡では、もとのサヌカイト礫の状態に復元可能な接合資料が多数存在しており、遺跡地に持ち込まれたサヌカイト礫の形状や石器製作に伴う石材消費のありかたを探るうえで重要な資料である。そうしたサヌカイト礫の調達に関わる基本的なデータを取得することができた。また、大阪平野における縄文・弥生時代遺跡におけるサヌカイト利用の実態を検討するために、石器組成・出土遺物等のデータ収集と集成作業に着手している。この作業を次年度は重点的に実施して、旧石器から弥生時代のサヌカイト製石器生産と石材調達のありかたについて相違・相似を明らかにする手がかりを得たい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究を推進するため、以下の作業を実施する。 1.サヌカイト原産地遺跡の採掘活動や利用実態を比較するため、信州産黒曜石原産地遺跡・香川県五色台産サヌカイト原産地遺跡の石器生産(旧石器~弥生時代)の研究現状を把握し、データの整理と検討を行う。 2.九州におけるサヌカイト・黒曜石原産地の産状調査を行い、二上山産サヌカイト原産地との比較を行う。 3.大阪平野の旧石器~弥生時代遺跡における二上山産サヌカイト利用のあり方について、出土遺物の観察と検討を行う。
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Causes of Carryover |
前年度末に実施予定の研究ワークショップについて、発表者予定者や会場確保の調整のため次年度に開催日をずらすこととなった。そのため、その分の開催経費を執行することができたかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当初計画通り、二上山産サヌカイトの利用に関する研究ワークショップの開催経費に使用する。
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