2015 Fiscal Year Research-status Report
越境するバスクのトランスナショナル社会空間に関する地理学的研究
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15K03021
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Research Institution | Kyoritsu Women's University |
Principal Investigator |
石井 久生 共立女子大学, 国際学部, 教授 (70272127)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 人文地理学 / バスク地方 / アメリカ西部 / トランスナショナル社会空間 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究初年度に当たる平成27年度は,バスク系移民の子孫が多く居住するアメリカ合衆国アイダホ州ボイジーと,移民排出地であるバスク地方において現地調査を実施し,多くの貴重な情報を入手した。研究計画の途中段階ではあるが,ここまでに入手した情報を整理し,論説や学会発表として公表した。 アメリカ合衆国のボイジーとバスク地方をめぐるモビリティから明らかになった研究成果は,つぎのようにまとめることができる。バイジーで5年ごとに開催されている世界最大級のバスクフェスティバルであるハイアルディJaialdiは,バスク州政府とバスク・ディアスポラで進行するバスク人コミュニティの再活性化のためのひとつの装置であるといえる。移民がディアスポラの地で開催する祝祭が,集団内でエスニックなシンボルや感覚を共有することでコミュニティの結束を強化したり故地との紐帯を確認したりするといった文化的機能を持つということは,従来もよく指摘されてきた。しかし平成27年度に開催されたハイアルディ2015の場合,それがディアスポラ政策と連動している点は,エスニックシンボリズムの議論の範疇を超える。さらにそのディアスポラ政策が,故地バスク地方における自治権回復,すなわちネイションとしての復活と連動している点も重要である。バスク地方において自治州の政治的枠組みの中でナショナリズムが制度化されその運動が活性化するのみでなく,そうしたナショナルな意識が地理的に離れたディアスポラでも共有されることで,エスニックなコミュニティの再活性化が故地バスクとバスク・ディアスポラで同時に進行しているのである。このことから,バスク地方とボイジーは,地理的に離れた空間でありながら,各種ネットワークで連動されたあたかも単体の社会空間,すなわちトランスナショナルな社会空間に含まれるものであり,その中の地場的存在であるといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画では,平成27年度にヒトの移動の時代(~1970年代)のモビリティについての調査をアメリカ合衆国とバスク地方で,平成28年度にヒトの移動収束後(1980年代以降)のモビリティについての調査をアメリカ合衆国とバスク地方で実施する予定であった。しかし具体的にアポイントなどの計画を詰めたところ,平成27年度にアメリカ合衆国で実施予定だったボイジー,ベーカーズフィールド,エルコの3都市での調査は調査期間の関係で困難であることが判明した。そのため平成27年度は,アメリカ合衆国ボイジーとバスク地方において両地域をめぐるモビリティーについての調査を,ヒトの移動の時代とその収束後を含めて実施する方針に変更した。そのための現地調査はアメリカ合衆国とバスク地方において順調に進めることができた。 アメリカ合衆国ボイジーでは,バスク博物館の関係者やバイジー州立大学の研究者らへのインタビュー調査を実施し,州公文書館で資料収集を行い,バスク人の移民の時代についての詳細なデータを入手した。またボイジーで5年ごとに開催されるバスクフェスティバルJaialdiに参加し,移民収束後のモビリティについての情報を収集した。 研究対象地域と研究対象時期の組み合わせの変更こそあったものの,アメリカ合衆国ボイジーとバスク地方についての必要とされる情報はほぼ入手したので,その点では研究がおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
さきに【現在までの進捗状況】で説明したように,研究の対象地域と対象時期を研究初年度に調整したため,平成28年度は,アメリカ合衆国のベーカーズフィールドとエルコにおいて現地調査を実施し,バスク系住民のデータを収集する予定である。カリフォルニア州とネヴァダ州に当たるこの地域には,かつて移住して経済的に成功したバスク系牧羊企業経営者が多く存在する。彼らに対してインタビュー調査を実施し,具体的移住過程の情報や,移民収束後のバスク地方との関係などを明らかにする。これと並行して,彼らの出身地であるバスク地方においても現地調査を実施する。カリフォルニア州やネヴァダ州のバスク系移民の出身地は,バスク地方の中でも北東部のナバラ県北部からフランスバスクにかけてに限定される。アメリカのバスク系牧羊企業経営者の出身地を特定し,出身地における移民の時代の情報や移民収束後のアメリカとの接触状況についての情報を収集する。 今年度の調査のキーワードは「牧羊」になるであろう。牧羊に関わる人間や技術がバスク地方からアメリカへどのように移動したか,ヒトの移動が収束した後はどのような種類の情報が両地域間を移動しているのかを明らかにすることを試みる。ヒトの移動に関する情報は,公的機関の統計情報などが存在しないため,移民記録や住所録などから丹念に洗い出し,当時のバスク人社会を再現する必要があろう。また現在の情報は,インタビュー調査などにより現在の接触状況を明らかにすることも一つの手段だが,牧羊関連団体などから情報を得ることも別の手段として考えられる。 こうして得られるであろう情報を整理し,最終年度の総括調査の計画を立案することに努める。
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Causes of Carryover |
物品費として計画していた図書の購入が予定よりも少なかったため,残額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
図書購入に予定より多くの予算を充当することにより対処したい。
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Research Products
(5 results)