2017 Fiscal Year Research-status Report
江戸幕府法における刑事事件の処理と「手続きの選択」ーー吟味筋かそれとも出入り筋か
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15K03093
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
大平 祐一 立命館大学, 文学部, 授業担当講師 (00102161)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 手続きの選択 / 吟味筋 / 出入り筋 / 目安糺 / 奉行所吟味願 / 手当呼出 / 心付呼出 / 私人による出訴 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.研究成果 (1)刑事事件に関する「手続きの選択」問題に関して前年度末にまとめた原稿を収録した本の刊行が平成30年5月と大幅に延期されたため、本年度は、史料の再収集・再点検をふくめてその原稿の根本的見直しを行った。(2)上記原稿には、字数の制限があったため、「手続きの選択」問題につき、上記原稿で論じきれなかった問題について、新たな史料に基づき別途、原稿をまとめた。(3)「出入り筋」の手続で取り扱われた刑事事件(「人殺し出入」)に関する史料を翻刻し活字にした。
2.その意義 (1)上記の「手続きの選択」問題は、従来の研究では未解明の問題であり、刑事事件が発生した場合の現地での「手続きの選択」とその理由について新たな見解を示すことができた。そして、さらに幕府中央の裁判所での「手続きの選択」についても、「犯罪の嫌疑の濃淡」という視点からその理由を解明することができ、従来の見解ーーすなわち、重大刑事事件は「吟味筋」の手続で、それ以外は「出入り筋」の手続でという見解ーーとは異なる視点から「手続きの選択」に関する新見解を提示することができた。そのことにより、公権力が、「犯罪の嫌疑濃厚」と思われる事件を自らの手で処理し、「犯罪の嫌疑濃厚とは思えない」刑事事件を「私人による出訴」にゆだねるという方針をとっていたことを明らかにすることができ、幕府の刑事司法、刑事政策の一端を解明することができた。(2)また、刑事事件が「出入り筋」の手続で扱われたことを示す史料を公にすることができ、従来の未解決問題ーーすなわち、刑事事件が「出入り筋」の手続でどのように扱われたのかは不明である、とされた問題ーーに一石を投ずることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(イ)本研究の目的は、江戸時代の刑事裁判手続における「吟味筋」「出入り筋」という二つの手続につき、どのような場合にどちらの手続が選択されたのかを明らかにすることにより、幕府の刑事裁判手続に関する従来の見解を再考するとともに、幕府の刑事司法、刑事政策の一端を明らかにすることにあった。そのため、刑事事件が発生した現地において、さらには、幕府中央の裁判所での訴状審査において、どのように「手続きの選択」がなされていたのかを、多数の史料に基づいて分析し、その成果をまとめることができた。その成果の中心部分は、平成30年5月に日本評論社から出版される書物の中に収録されている。付随的成果の部分は論文として、平成30年3月に立命館法学に投稿した。
(ロ)刑事裁判手続は、従来、「吟味筋」の手続を中心にして行われてきた。そこで本研究では「出入り筋」での刑事事件の取扱の解明とそのための史料収集をも研究計画に掲げたが、この点についても、平成28年度、29年度の2年間に2本の原稿をまとめることができた。 以上の(イ)(ロ)から、(2)と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究により、刑事事件に関する犯罪発生地および幕府中央の裁判所での「手続きの選択」問題に関する研究はほぼ完遂できた。また、刑事事件を「出入り筋」の手続で審理した場合の実態についても具体例を紹介することができた。 しかし、刑事事件について、(1)訴えの提起、(2)訴状審査にもとづく「手続きの選択」、(3)「手続きの選択」後の裁判所での審理、(4)判決申し渡し、(5)刑の執行という一連の流れを考えた場合、(2)の訴状審査における「手続きの選択」理由が、(3)の裁判所での審理にどのような影響を与えたのかは極めて重要な問題であるが、この点は今後の課題とせざるを得なかった。今後、この点について研究を進めて行きたいと思う。
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Causes of Carryover |
(1)次年度使用額が発生した理由 研究は当初予定通り順調に進んできており、中心的研究成果の見直しも順調に進んでいたが、2種類の書物の書評を依頼され(そのうちの1種類は2冊千頁からなるもの)、辞書の項目執筆の依頼もあり、韓国ソウル大学でのシンポジウムの報告準備と重なって、予想外に時間をとられ、予定した研究会出席や史料調査をとりやめざるを得なかった。 (2)使用計画 裁判手続の二つの類型(吟味筋と出入り筋)の異同をより鮮明にし、研究の精度を高めるため、法制史学会や近世法史研究会等で、専門の研究者と裁判手続に関する議論を深めるための旅費に充て、また補充的史料調査のための旅費・複写費に使用したい。なお、成果刊行物の寄贈費にも使用したい。
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