2015 Fiscal Year Research-status Report
戦間期における国際海洋法の形成に対する British View の影響と妥当性
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15K03143
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
喜多 康夫 帝京大学, 法学部, 准教授 (80307206)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 海洋法史 / 国際法典編纂会議 / 英国 / ノルウェー / 領海3海里主義 / 湾口10海里規則 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、まず1923年帝国会議のための省庁間委員会を調査した。国際法の法典化作業のために帝国全体の海洋法政策を統一することを目的として、海軍省が関係省庁に呼び掛けて、省庁間委員会が開催された。委員会において、イングランド漁師によるスコットランド沿岸での漁を巡って、湾口10海里原則について、スコットランド庁と農業水産省の対立が明白となった。きわめて国内的理由であるが、海洋法に関する英国の見解(the British View)の形成は決して単純なものではなかったことが改めて判明した。また、湾こそが領海3海里原則の基礎である低潮線規則と円弧包絡線手法の限界事例であることから、領海3海里原則にとって湾の定義が極めて重要であることも理解できた。 また、1923年帝国会議以降については、国際法典編纂会議の準備のための省庁間委員会も調査した。英国の官庁、特に海軍省は領水の国際法の法典化作業について反対であった。領海3海里主義にとってマイナスになる結果を恐れたためである。しかし、領水に関する法典化作業が始まると、省庁間委員会は1928年の「論点一覧」及び1929年の「基礎案」が自分たちの見解と一致することに安堵した。これは、当時の外務省法律顧問であったCecil Hurstが基礎案準備委員会の委員であり、British Viewを基礎案に反映できたこともその理由の一つであった。他方で、歴史的権原に関するノルウェーの主張が認められる恐れのある基礎案第4号もあり、領海3海里主義に対する打撃を恐れ、場合によっては会議の破たんも辞さないことも改めて判明した。 国際連盟公文書館では連盟事務局の内部文書を調査したが、国際法典編纂会議の過程が改めて理解できた。特に英国とノルウェーがそれぞれ事務局にアプローチをかけて、それぞれの海洋法観を会議に反映しようとしていたことも判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
事前調査が十分にできており、また英国公文書館でも国際連盟公文書館でも、時間を無駄にすることなく、必要な公文書を探し当てることができたのが、予定よりも計画が進んでいる理由であると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究計画のもう一つの柱は、英国とノルウェーの漁業紛争である。実際、ノルウェーによる領水外への管轄権の拡張が、1923年省庁間委員会開催の伏線となっている。本年度においては、1935年漁業紛争を中心に第2次世界大戦に至るまでのノルウェーとの確執がBritish Viewにどのような影響を与えたかについて、英国公文書館とノルウェー公文書館での調査を行いたい。
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