2015 Fiscal Year Research-status Report
農業協同組合法の改正論点についての研究:規制改革会議で提起された論点を中心にして
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15K03188
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Research Institution | Otaru University of Commerce |
Principal Investigator |
多木 誠一郎 小樽商科大学, 商学部, 教授 (50324364)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 協同組合 / 農協 / 非営利 / 協同 / 監査 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年5月規制改革会議が農業協同組合法改正を提言した。提言された論点の一部は以前から実際界では論点となってきたものの、法的側面から十分な検討が行われてこなかった。このような状況の中で平成27年2月には、上記論点の一部にかかる法改正について政治決着し、それを受け同年8月に同法改正法案が国会を通過した。加えて5年後には再度の法改正も予定されている。 本研究ではこのような実際界の動きを視野に入れながら、上記論点及びその延長線上に位置する論点について、企業法研究の一環として考察することを目的にする。研究初年度である平成27年度はこれら諸論点のうち、農業協同組合中央会(中央会)の廃止及びそれに伴う中央会監査の廃止を取り上げた。 中央会は廃止されるものの都道府県中央会は農業協同組合連合会として、全国中央会は一般社団法人に、それぞれ移行(組織変更)する。本論点については、いわゆる農協改革の1丁目1番地としてメディア報道がセンセーショナルに取り上げたが、報道によって一般に流布した内容を含めて冷静に吟味した。 中央会は法的には消滅するが、組織変更後の組織が現行法におけるのと実質的に同じ事業を行うことも、中央会監査を除いては法的には不可能ではないともいえる。しかしながら法的に不可能ではないことと、実際に行えるのか、あるいは行うのかは別問題であることを明らかにした。 メディア報道では全く触れられなかったが、組織変更後の組織には指導権限の裏返しである指導義務もなくなる。中央会監査に即して言うと、新設される農協系監査法人は、監査を引き受けるに際してチェリー・ピッキングをしても法的には許されることになる。その結果生じる問題点を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
一般に入手可能な資料を渉猟した上で、農業協同組合中央会の廃止及びそれに伴う中央会監査の廃止について考察し、その結果をまとめて公表した点を踏まえ、上記区分を選択した。 法的枠組みが決定したことを受けて実際界では、中央会についての具体的な制度設計に関する議論を平成28年度に始めるようである。一定程度議論が進行した段階で、本論点についてより具体的・実務的事項を取り上げ、再論することを予定している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年法改正により出資組合(信用事業又は共済事業を行うものを除く。)は、その組織を変更し、株式会社になることができる規定が新設された。法案ができるまでの経過から推測すると、主として農業協同組合連合会が、自らの意思に基づいて任意に株式会社に法形態を変更することを想定しているといえる。 このような規定が設けられること自体は肯定的に捉える。なぜならば法人格の同一性を維持したままで法形態を変更する道が開かれ、ビジネス展開する上での選択肢が一つ増えたからである。しかし元来規制改革会議は平成26年5月の提言の中で法形態の変更を強制しようとしたが、反対意見が多かったため、組合による任意選択を内容とする法改正に落ち着いたという経過がある。 このような経過を考慮に入れると、5年後に予定されている再度の法改正で――その是非は別にして――法形態の強制的な変更が法律に盛り込まれる可能性も小さくない。上記連合会が協同組合であり続けたいと考えても、法的にそれが許されなくなってしまう。そこで考察すべきは、①法形態は株式会社であるが、運営は協同組合的に行うことはできないのか、②できるとしても限界はないのかという論点である。この論点すなわち協同組合的株式会社の可能性と限界について文献研究を行う。 当事者である上記連合会やその所有者である会員組合は、同連合会の株式会社化に対して必要性を感じているのであろうか。あるいは株式会社化に際して問題点はあるのだろうか。関係者にインタビュー調査を行う。
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