2016 Fiscal Year Research-status Report
農業協同組合法の改正論点についての研究:規制改革会議で提起された論点を中心にして
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15K03188
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Research Institution | Otaru University of Commerce |
Principal Investigator |
多木 誠一郎 小樽商科大学, 商学部, 教授 (50324364)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 協同組合 / 農協 / 非営利 / 協同 / 監査 / 中央会 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年農業協同組合法改正により、組織再編をする際に利用できる方法として、組合から他の法形態への組織変更及び新設分割が新たに加わった。例えば第一段階で、総合農協を新設分割組合として、信用・共済事業以外の事業に関して有する権利義務の全部を新設分割設立組合に承継させる。第二段階として、新設分割設立組合を株式会社に組織変更する。第三段階として、新設分割組合の信用事業を信用農業協同組合連合会(信連)又は農林中央金庫(農林中金)に事業譲渡する。組織再編規定の新設については、再編を強制するものではないものの、いわゆる総合農協の解体に道筋をつけるための規定であるという趣旨の懸念も出されている。 今回の法改正後の法的状況では、上記組織再編を行うインセンティブは組合にはほとんどないと推測する。しかし次回の同法の改正により、仮に准組合員の事業利用に係る規制が導入されると、同利用の比率が高い組合は上記組織再編をせざるをえなくなる。信用事業の譲渡を受ける信連も、員外取引規制を緩和する規定や孫会員利用を会員による利用とみなす規定が新設されなければ(韓国農業協同組合法58条2項参照)、会員組合の准組合員との取引を制限せざるをえなくなることを明らかにした。 上記の通り総合農協が株式会社に組織変更した場合に、法形態は株式会社であるが、運営を協同組合的に行うことはできるのか。会社にかかる規制は、平成17年会社法の制定によって定款自治が拡大し、制度設計は以前よりかなり柔軟にできるようになった。それゆえ議決権配分・剰余金の分配については典型的な株式会社とは異なる協同組合的な制度設計をすることも可能である。しかし協同組合持分と異なり株式には構成員の地位が表章されているため、株式の自由譲渡性を完全に否定できない現行法下では、典型的な株式会社への変容の可能性を常に内包していることを指摘できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
一般に入手可能な資料を渉猟した上で、農業協同組合中央会の廃止及びそれに伴う中央会監査の廃止、並びに組織再編といった研究実施計画に記した論点について考察した点を踏まえ、上記区分を選択した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は組合員制度を取り上げる。平成27年農業協同組合法改正の際に法律の附則に明定されたように、改正法施行後5年後にも予定されている次回の法改正において組合員問題、具体的には准組合員問題が最大の論点になることは確実な状況である。 正組合員である農業者より准組合員である非農業者の方が多く、事業利用分量についても信用・共済事業では准組合員の方が多いというのは、もはや「農業」協同組合ではない。准組合員数・利用分量において何らかの制限を設けるべきである。このような批判がなされている。あるいはより根本的に、准組合員は戦後直後の遺物として批判されることも多い。これらの批判に対しては組合事業はとりわけ農村では社会インフラとなっているので、制限は現実的ではないという反論がなされている。 現段階では私見は准組合員を存続するという意見に親近感を抱くが、さりとて社会インフラという必要性のみでは正当化できないと考える。そこで比較法的にみると組合員(社員)は一元的ではなく、株式会社におけるように色々な種類がある点を参考にしながら、協同組合法理論上でも説得力を持つ准組合員制度あるいはそれに代わる制度を設計できるのかについて考察する。 上記附則には、正組合員・准組合員の組合事業利用状況の調査を政府が行うことが併せて明定されている。それゆえ政府による当該調査の結果も必要に応じて活用する。
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