2020 Fiscal Year Research-status Report
農業協同組合法の改正論点についての研究:規制改革会議で提起された論点を中心にして
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15K03188
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Research Institution | Otaru University of Commerce |
Principal Investigator |
多木 誠一郎 小樽商科大学, 商学部, 教授 (50324364)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 協同組合 / 農協 / 非営利組織 / 非営利団体 / 非営利企業 / 社会的企業 / 協同組合法 / 非営利組織法 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度に公表した「経営管理委員会制度についての諸報告を踏まえて」を出発点にして引き続き、ガバナンスの一翼を担う経営管理委員会制度について考察した。 経営管理委員会制度の導入から現在までの史的変遷を辿ったうえで、経営管理委員設置組合における総会・理事会・監事・経営管理委員会の間の権限分配の特徴と問題点を明らかにした。考察に際しては、経営管理委員会と同じくモニタリング・モデルの考え方によって設計された制度である指名委員会等設置会社及び伝統的理事会設置組合の状況を、必要に応じて比較の視座に置いた。 ドイツにおける制度を参考にして経営管理委員会制度が導入されたとこれまで説明されてきた。しかしドイツでは監事は存在しない。経営管理委員会制度は、少なくとも単層式制度(米国)でも、二層式制度(ドイツ)でもないわが国特有の制度であると位置付けることができるという結論に達した。 経営管理委員会と監事が併存するため、わが国では両者の間の権限分配が不明確になるという問題点が生じることを考察の結果明らかにした。とはいうものの併存するという現行法を前提にして、理事の業務執行の監督・監査を両者がどのようにして効果的に分担するのか、そのあり方を模索していく必要がある。例えば経営管理委員会には妥当性の観点のうち合目的性の観点からの監督が期待できる。監事は違法性の観点からの監査を主たる職務とするが、併存するという点を考慮すると、妥当性の観点のうち経営管理委員会に期待できない効率性の観点から少なくとも意見を述べることが監事に期待されるという結論に達した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
一般に入手可能な資料を渉猟した上で、(1)農業協同組合中央会の廃止及びそれに伴う中央会監査の廃止、(2)組織再編、(3)組合員制度、(4)地域社会への貢献を目的とする組合、(5)ガバナンスのあり方、(6)汎用的・一般的協同組合法といった諸論点について考察し、その結果を毎年度公表してきた点までは順調に進展しているといってよい。 しかしながら農協改革集中推進期間が2019年6月に終了する際に予測された新たな議論のみならず、農業協同組合法改正附則に明定されたいわゆる5年後見直し条項にいう見直し期限(2021年3月末)を睨んだ議論も低調に終わった。それゆえ2020年度に予定していた、後者の議論を前提とした考察をしなかった。同考察に代えて、ガバナンスの一翼を担う経営管理委員会制度について、2019年度の研究成果をより深掘りする形で考察を進めた。 上記5年後見直し条項にかかる議論が活発になされないときに備えて遂行する予定であった水産業協同組合法改正にかかる考察に必要な情報収集は、コロナ禍のためヒアリング予定先による受入れが困難であったため現在進行中の状況である。 上記諸事情を考慮に入れて、「やや遅れている」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
規制改革推進会議(規制改革会議の後継組織)に対して行政庁(農林水産省)から示された案によると、上記5年後見直し条項に基づく大がかりな法改正はなされないようである。それゆえ実際界の新たな展開を考慮に入れた研究を遂行するのに代えて、農業協同組合法改正に倣って同趣旨の改正が2018年末になされた水産業協同組合法にかかる次の事項について引き続き考察する。例えば(1)両法の改正内容に差異があるのか、(2)差異がある場合にはどのような理由によるものか、(3)農業・農村・農業者と漁業・漁村・漁業者の異同を考慮した場合に、改正内容の異同をどのように評価できるのか、についてである。コロナ禍が長引くことによりヒアリング先による受入困難が続くことも予測できる。それゆえ遠隔によるヒアリングなど次善の方法も取り入れる。 水産業協同組合法改正を比較の視座に置くことによって、農業協同組合法改正の特徴・問題点を浮き彫りにしたうえで、研究最終年度の取りまとめをする。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じたのは次の二つの理由による。一つは、2020年度に予定していた出張がコロナ禍のため遂行できなかったためである。もう一つは、2020年度に購入予定の図書の公刊が2021年度以降にずれ込んだためである。 繰り越した額は、2021年度に公刊予定の図書の購入費、研究遂行のための出張費、仮想空間における遠隔研究会参加に必要となる機材購入費等に充てる予定である。
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