2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K03198
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
香川 崇 富山大学, 経済学部, 教授 (80345553)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 時効 / 抵当権 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度においては、フランス古法時代の慣習法や学説、民法典の立法過程を検討し、1804年のフランス民法典における抵当権の時効制度の構造を明らかにした。 フランス古法では、抵当権に関する公示制度が整備されておらず、第三取得者が抵当権の存在を知らずに不動産を取得する可能性があった。そこで、①第三取得者が抵当権の設定された不動産を占有している場合(以下、①型)、抵当権は、第三取得者における取得時効の完成によって消滅するとされた。取得時効には、30年の占有を要する長期取得時効と、正権原と善意を成立要件とした10年又は20年の占有を要する短期取得時効がある。また、②抵当権設定者が占有者の場合(以下、②型)には、取得時効ではなく抵当権それ自体の40年の消滅時効が認められた。なお、この時効期間は原則的な期間であり、法定抵当権・裁判上の抵当権は30年の消滅時効にかかる。ポティエも、①型で短期・長期取得時効による抵当権の消滅、②型で消滅時効による抵当権の消滅を認めていた。 その後、共和歴3年の法律は、抵当権の公示制度を定めたが、共和歴8年草案は、抵当権の公示制度を定めなかった。同草案は、①型における短期・長期取得時効による抵当権の消滅を定めた。もっとも、第三取得者への譲渡を抵当権者が認識できない正当な原因がある場合、時効はその期間進行しないとしていた。 他方、破毀院草案は、抵当権の公示制度の確立を提言しつつも、①型につき、短期・長期取得時効による抵当権の消滅を定めた。なお、同草案は共和歴8年草案中の抵当権者の不知に関する規定を廃し、正権原の登記を短期取得時効の成立要件とした。また、②型につき、抵当権が特別の時効でなく、被担保債権と同じく、人的訴権に関する時効(30年の消滅時効)にかかるとした。フランス民法典旧2180条の抵当権の時効に関する規定は、同草案とほぼ同じ内容であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は、1804年に制定されたフランス民法典における抵当権の時効制度の趣旨について研究することを予定していた。 フランス民法典制定前における慣習法は、抵当権の設定されている不動産を第三取得者が占有している場合(①型)、取得時効の完成による抵当権の消滅を認めていた。これは、古法において抵当権の公示制度が整備されていないために、抵当権の存在を知らずに不動産を取得してしまった第三取得者を保護するためのものであった。なお、デュノーは、①型につき、抵当権者が不動産の譲渡を認識しないまま、取得時効によって抵当権が消滅する場合があることを指摘した。また、ポティエは、抵当権設定者が占有者の場合(②型)、抵当権の消滅時効を認める。もっとも、抵当権の消滅時効を認める理由は、ポティエの時効観に由来する。すなわち、ポティエによれば、消滅時効は滅却的抗弁であって、被担保債権に関する消滅時効が完成しても、抵当権は存続する。それゆえ、抵当権設定者保護のためには、抵当権の消滅時効を特別に認める必要があった。 共和歴8年草案は、①型につき、慣習法の内容を引き継ぎつつ、不動産の譲渡に関する抵当権者の不知を考慮した規定を創設した。これは、フランス古法における学説を意識し、抵当権者の権利行使可能性に配慮したものといえよう。破毀院草案・旧2180条は、②型につき、抵当権に関する時効期間を被担保債権の時効期間を同一とする規定を置き、時効期間の平準化を図った。また、①型に関する抵当権者の不知に関する規定を廃する代わりに、正権原の登記を短期取得時効の成立要件とすることで、抵当権者の権利行使可能性を確保している。 以上のフランス古法における慣習法や学説の展開、立法過程の検討によってフランス民法典旧2180条の抵当権の時効に関する規定の趣旨を明らかにできたものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、民法典の制定後から1955年の公示制度改革に至るまでの抵当権の時効の展開を研究する。 前年度の研究からすれば、取得時効の完成による抵当権の消滅という制度は、抵当権の公示制度と関係するように思われる。フランス古法では抵当権の公示制度が整備されておらず、抵当権の存在が第三者にとって覚知困難なものとなっていた。このような状況下において、取得時効の完成による抵当権の消滅という制度は、抵当権の存在を知らずに不動産を取得した第三取得者を保護するという役割を果たしていた。そうすると、抵当権の公示制度が確立するならば、取得時効による抵当権の消滅を認める必要は減ぜられることとなろう。フランス法においては、1855年の法律によって抵当権の公示制度が確立し、その公示制度は1955年に改正された。そこで、公示制度が確立されていく中で、取得時効の完成による抵当権の消滅という制度がどのように理解されていたのかを検討する。 以上はフランス法を素材とするものであるが、ベルギー法も検討対象とする。ベルギーは、フランス法の強い影響を受けつつも独自の抵当法を制定している。そこで、ベルギーにおける抵当権の時効に関する議論の展開も検討し、フランス法における学説等の相対化を試みることにしたい。 これらに関係する書籍や判例集については、復刻版が購入できるのであれば購入し、購入不可能な場合には国立国会図書館や他大学の図書館等にて複写して調査・収集し、検討する。また、近時のフランス国立図書館で古い文献がPDF化されているので、それらをインターネットを通じて入手し、検討することとしたい。
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