2016 Fiscal Year Research-status Report
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15K03199
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
樫見 由美子 金沢大学, 法学系, 教授 (20176829)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 責任能力 / 事理弁識能力 / 自動車事故 / 自動運転 / 被害者側理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
<研究経過>本年度の研究内容は、一つには、民法の立法以降における責任無能力者の賠償責任に関する裁判実務や学説の状況分析と、他の一つは、戦後ドイツにおける自動車事故の免責事例や使用者責任に関する学説やBGHの判例分析である。前者については、昨年度に研究の大部分を完了していたので、本年度は、この問題に関連する分野についても研究を行った。具体的には、過失相殺における被害者の過失相殺能力の問題と自動運転における法的責任について、責任無能力者制度との関係性を検討した。過失相殺能力については、722条2項の被害者の過失の認定にあたり、従来は被害者に責任能力が要求されていたが、現在では12歳程度から5歳未満まで過失相殺能力は低年齢化され、事理弁識能力でよいとされているのが裁判実務である。責任無能力制度の存在意義につき別の側面からの検討を促す契機ともなった。また自動運転に関する法的責任の検討において、病気や精神上の障害によって自動車の運転制御が不能となった責任無能力の場合にも現行の自動車損害賠償保障法3条の法的枠組みで対応できることを下級審裁判例の実務の動向を踏まえて研究を行った。 後者の研究課題についてドイツの関係文献は一部検討できたが、ドイツでの実地調査は都合によりできなかった。 <研究成果>上記の作業を通じて、学会報告1件と、論文2本の執筆を行った。①「被害者側の過失」『実務 交通事故訴訟大系』(第3巻)(2017年出版予定)、②「自動運転に関する法的責任」(平成29年電気学会全国大会講演論文集第1分冊10-13頁 2017年)平成29年3月15日富山大学にて開催された電気学会全国大会のシンポジウム「自動運転社会の実現に向けた倫理的課題」の中で、「自動運転に関する法的責任」を報告するとともに、概略を論文として公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
・平成28年度には、ドイツにおける責任無能力者の賠償責任に関する裁判実務や学説の状況を分析することを計画していた。そこでは、大学の研究室での文献調査と並んで、ドイツでの文献調査やドイツの保険事情の調査も予定していたが、平成26年からの部局長としての学内業務の多忙化のために、予定していたドイツへの調査は実施できなかった。 ・民法712~714条における責任無能力制度の概要と今後の法的解釈論の方向性についてはすでに平成27年度に一定の成果を公表したが、この問題とも関連する被害者の過失相殺能力の問題や、責任無能力者による交通事故の発生にもその有用性を示す自動運転を素材として、自動運転に起因する事故に対する法的責任についても検討した。 ・また責任無能力者が本来であれば負うべきであった損害賠償責任を、この者に代わって誰が負うのか、それは責任無能力者の「法定の監督義務者」なのか、被害者自身なのか、それとも責任無能力者自身がやはり負うべきなのかという立法的解決の必要性を認識した。
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Strategy for Future Research Activity |
・平成29年度は、昨年度実施できなかったドイツでの文献調査とドイツの損害保険事情の調査を予定している。 ・責任無能力者制度をめぐる法的問題の射程がますます広がり、さらに研究領域を広げる必要があると認識している。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が多額に上ったのは、今年度予定していたドイツにおける文献調査と損害保険状況の調査が、研究者本人が部局長として学内業務に従事し、その繁忙のために実施できなかったことによる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
・平成29年度は、早期に調査旅行計画を建てて、学内業務の支障を取り除き、調査の実施に支障がないようにする。 ・ドイツには、視察の際に、大学の同僚である福本准教授(専門分野:民事訴訟法)とともに調査を実施するとともに、当地での文献収集や複写を行う。また同地での調査を円滑にするためのドイツ語通訳のための謝金の利用を予定している。
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Research Products
(3 results)