2020 Fiscal Year Research-status Report
近世・近代日本における科学と政治思想ー蘭学の比較政治思想史研究ー
Project/Area Number |
15K03286
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
大久保 健晴 慶應義塾大学, 法学部(三田), 教授 (00336504)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 政治思想 / 蘭学 / 科学 / オランダ / 日本政治思想史 / 比較政治思想 / 兵学 / グローバル・ヒストリー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、徳川期における蘭学の勃興と展開について、西洋学術の伝播と東アジアの伝統との相剋を視野に入れながら、政治思想史の観点から検討する。その上で、近世蘭学の伝統と蓄積に熟達した洋学派知識人たちが、「開国」を通じていかに西洋近代と向き合い、「科学と政治思想」の枠組みを作り上げたのか、近代日本の始源に立ち戻って問い直すことを最終的な目的とする。 2020年度は、大きな成果として、2017年10月開催の日本思想史学会50周年記念シンポジウムで発表した研究報告「蘭学の政治思想史・試論―近代東アジアのなかの日本―」をもとに、新たな知見を付け加え、大幅に加筆修正した論文「蘭学と西洋兵学―比較と連鎖の政治思想史―」を完成させた。この論文では、ブレダ王立軍事アカデミーと高野長英訳『三兵答古知幾』との関係に光を当て、そこで展開される“vryheid”(自由)の概念や軍事秩序像について、荻生徂徠ら東アジアの兵学的伝統との比較のなかで分析を行った。そして福澤諭吉、西周、神田孝平ら、明治日本で活躍した学者や政府官僚たちの統治論が、西洋兵学論を核とする近世蘭学の展開と地続きにあることを明らかにした。同論文は、2021年5月刊行予定の論文集『日本思想史の現在と未来』(ぺりかん社)に収められ、公刊される。 また昨年度から取り組んできた論文「徳川日本における自由とナポレオン」が、瀧井一博編著『「明治」という遺産』(ミネルヴァ書房)に収められ、2020年9月に公刊された。さらに、野口雅弘他編著『よくわかる政治思想』(ミネルヴァ書房)に論稿「開国」を執筆した。 他方、新型コロナウィルスの影響により、7月に研究報告・討論を行うことが決定していた国際会議・世界政治学会が延期となった。また、8月に予定していたオランダ・ライデン大学図書館ならびにハーグ国立公文書館での史料調査が実現できなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究ではこれまで、オランダ・ライデン大学図書館やハーグ国立公文書館、フランス・パリ国立図書館で史料調査を行ってきた。またスイス・チューリッヒ大学、スペイン・マドリッド自治大学、フランス・パリ人間科学財団、ポルトガル・リスボン、フィリピン・マニラ、韓国・ソウル大学、中国・中山大学、京都・国際日本文化研究センターなど、世界各地で開催された国際学術会議や国際研究プロジェクトにおいて、本科研費の研究成果を公開し、多くの研究者と議論する機会を得てきた。 これらの経験と成果をもとに、2020年度は、昨年度に続き、学術論文や諸論稿の執筆・公開に専心した。本年度の主な成果として、「研究実績の概要」で記した学術論文「蘭学と西洋兵学―比較と連鎖の政治思想史―」、「徳川日本における自由とナポレオン」、ならびに論稿「開国」がある。 また、論稿「『窮理』から社会科学へ」を『日本思想史事典』(丸善出版、2020年4月刊)に寄稿した。加えて、『洋学史研究事典』(2021年刊行予定)において、「シモン・フィッセリング」「統計学」「法学」「幕末オランダ留学」という4つの項目を執筆した。 さらに2020年5月に開催された洋学史学会のオンライン会議「ミニ・シンポジウム 洋学と陸海軍の創設(パート2)」に報告者・討論者として出席し、その後、洋学史学会研究年報『洋学 28』(2021年)に「討論報告」を執筆した。同じく5月開催の政治思想学会オンライン学術大会では、自由論題報告の司会をつとめた。加えて「座談:150年のスパンで『統計学』を見る」(『三田評論』)に討論者として参加した。 このように、コロナ禍による制限のなかでも、自らの研究課題の遂行と公開にできる限りの力を尽くした。しかしながら、参加を予定していた国際会議・世界政治学会が延期となり、またオランダでの史料調査を実現できなかったことは、非常に残念であった。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の総仕上げとして、オランダでの史料調査、ならびに国際会議での研究報告を予定していたが、新型コロナウィルスの感染拡大の影響により、残念ながら実施できなかった。そのため、1年間、補助事業期間の再延長を認めていただいた。 2021年度は、昨年度、ポルトガル・リスボンでの開催が予定されながら延期となった国際会議・世界政治学会(International Political Science Association)の研究大会が7月にオンラインで開催されるため、そこで研究報告を行うことを予定している。また当初の計画通り、オランダでの史料調査を実現することを第一に考えつつ、それが今年も不可能な場合には、オランダの図書館からの史料の複写・取り寄せや、国内の図書館に所蔵される史料の活用など他の方策を模索しながら、必要な研究調査を完了させる。 以上の作業を通じて、2015年度から続けてきた本研究全体の成果を大きな一つの形としてまとめる計画である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの影響により、計画していたオランダ・ライデン大学図書館ならびにハーグ国立公文書館での史料調査を実施することができなかった。また研究報告を予定していた国際学術会議・世界政治学会(International Political Science Association)も延期となった。そのため、1年間、補助事業期間の再延長を認めていただいた。 本年度は、計画通りオランダを訪問して史料調査を実施することを第一に考えながら、状況によって不可能であれば、オランダからの史料の複写・取り寄せも含め、代替的な方法を用いて、研究の完成を目指す。また世界政治学会も7月にオンラインで開催されることが決定したため、そこで研究報告と討論を行うことを予定している。
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