2015 Fiscal Year Research-status Report
学校選択制における真実表明からの逸脱と安定性の関係に関する理論と実験
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15K03357
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Research Institution | Future University-Hakodate |
Principal Investigator |
川越 敏司 公立はこだて未来大学, システム情報科学部, 教授 (80272277)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
瀧澤 弘和 中央大学, 経済学部, 教授 (80297720)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ゲーム理論 / マーケット・デザイン / 実験経済学 |
Outline of Annual Research Achievements |
学校選択制のマッチングにおいては、複数の生徒を複数の学校のどこに入学させるかが問題となる。生徒の希望と学校側の優先順位をなるべく満足するようにするマッチング方式として受入保留(DA)方式が最もポピュラーなものである。それは、DA方式においては生徒にとって真の選好を表明することが支配戦略であり、かつそのとき実現するマッチングが安定であるためである。 ところが、過去の実験研究におけるデータを調べたところ、かなり高い割合で支配戦略からの逸脱が観察されている。それには色々な理由があるが、実験データから明らかになったのは、生徒は自分が希望している学校よりは、自分を高く評価している学校を選ぶ傾向があるということである。これをスキップダウン戦略という。 本年度は、なぜ生徒がこのスキップダウン戦略を採用するのか、その合理的な理由を探求した。まず、心理学的な観点からは、後悔回避と承認欲求という2つの考え方が得られた。前者は、希望している学校に採用されないで失望するよりは、自分を評価してくれている学校に行く方が後悔をしなくて済むという考えである。後者は、人には他人から承認されたいという欲求があり、学校選択というのは生徒と学校との長期的な関係の出発点であることから、生徒にとっては長期的に見て自分の能力を評価してくれている学校を選ぶ方が好ましくなるということである。 さらに戦略的な観点からは、スキップダウン戦略を採用することがナッシュ均衡になるための条件を求め、またそのとき導かれるマッチングが安定マッチングになる条件も明らかにできた。なお本年度は、理論的研究が中心となり、得られた理論を実験室で検証することまではできなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画どおり、学校選択制のマッチングにおける支配戦略からの逸脱原因について調査を進め、理論的な面では大きな進展が得られた。具体的には、実験室実験で観察されているスキップダウン戦略の合理的解釈について、心理学的な観点と戦略的観点のそれぞれからの根拠づけを得ることができた。 本年度は、この理論研究を中心に行ったため、理論的仮説を実験室実験で検証する段階までは研究を進めることができなかった。しかし、得られた理論的成果には見るべきものがあったため、予定されている実験研究論文の他に、独立した理論論文を執筆する目途ができ、現在その作業を進めているところである。 したがって、総合的に見て成果は十分に上がっており、研究計画は順調に進んでいると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の理論的研究成果を、独立した理論論文として執筆し、ジャーナル誌に投稿することが次年度の最初の課題となる。 マッチング理論の世界では、与えられたメカニズムの下でプレーヤーが均衡戦略を採用することを当然視して研究がすすめられているが、現実の世界ではそのような状況は想像しずらい。さらに、こうした均衡戦略からの逸脱が実現するマッチングの性質にどのような影響を与えるのかに関する研究は皆無であり、その点でも本研究の成果は重要な貢献が可能であると考えている。 次年度は、さらにこうした理論的成果を実験室実験で検証することに取り組む。また、研究代表者の所属する大学の卒業研究での学生の配属に受入保留方式を採用することが決定したことから、ここからフィールドでのデータも入手できる可能性が開けた。 ということで、次年度は理論研究の成果をなるべく早くとりまとめ、実験・実証研究に進む予定である。
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Causes of Carryover |
当初の計画では、本年度中に理論的研究を終了させ、ただちに実験研究に移る予定であったが、思いのほか理論研究のボリュームが大きくなり、それを独立した論文として執筆する必要が生じたため、実験研究を実施する段階まで進まなかった。そのため、実験室実験に充当する予定であった予算を使い切ることができず、次年度に繰り越すこととなった。 次年度は、今年度の理論的研究の成果を早々にとりまとめ、繰り越した資金をもとに予定している実験研究に取り組む予定である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度に繰り越した金額は全額、実験室実験において被験者に支払う謝金として使用する予定である。
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Research Products
(14 results)