2017 Fiscal Year Research-status Report
「両利き」事業部の組織特性およびMCSの設計と利用に関する研究
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15K03789
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
福田 淳児 法政大学, 経営学部, 教授 (50248275)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 両利き事業部 / マネジメント・コントロール・システム / テンション / 診断的なコントロール / インターアクティブなコントロール |
Outline of Annual Research Achievements |
探索志向の組織学習と活用志向の組織学習をともに効果的に実施することのできる「両利き」事業部におけるマネジメント・コントロール・システムについて,今年度はとくにマネジメント・コントロール・システムの下位システム間の関係に焦点を当て,インタビュー調査や文献レビューを実施した。従来多くの研究で,診断型のコントロール・システムとインターアクティブなシステムは「正反対の効果」(Simons, 1995, p.90)をもたらすことが強調されてきた。しかしながら,両者の関係は必ずしも相対立するものではないことがインタビュー調査や文献研究を通じて明らかになった。診断的なシステムがインターアクティブなコントロールのための前提条件となる(Widener, 2007)とともに,インターアクティブなコントロールによって創発された戦略が診断的なコントロールに制度化される側面もある(Simons, 2000)。さらに,Vandenbosch and Higgins (1996)によれば,診断的なコントロールを実施するプロセスにおいて,診断的なコントロールに埋め込まれた業績目標値と実績との間に差異が発生する場合には,両者の差異の原因が探求され,このことが新しい戦略に結びつく可能性がある。このことはいくつかの文献でも指摘されている。Vandenbosch and Higgins (1996)によれば,差異分析の過程で行われるドリルダウンが単なるモニタリング活動で終わることもあれば,スキャンニング活動に至る場合もある。このことは,診断的なコントロールがある状況のもとでは新しい戦略の創発をもたらす可能性があることを示唆している。今後,この点を加味して,両利き事業部のマネジメント・コントロール・システムに関する質問票調査を設計する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本年度は予定ではこの研究課題の最終年度であった。しかし,以下の理由で進捗に遅れが出ている。文献のレビューまた企業へのインタビュー調査は比較的順調に進んだが,そのプロセスでマネジメント・コントロール・システム間の関係についてのこれまでの分類または理解では必ずしも両利き事業部のマネジメントがうまく説明できない可能性があることがわかってきた。このために,情報システム(ESS)およびそれが提供する情報の役割などに関する文献を中心に広範にレビューを行なうことで両者の関係を考察した。また,インタビュー調査においてもこの点を特に意識して聞き取りを行った。これらの成果に基づいて,診断的なコントロールとインターアクティブなコントロールとの関係についていくつかの検討を行なった。その結果,現場発の階層横断的なインターアクションと従来のインターアクティブなコントロールを区別することで,「両利き」事業部のマネジメント・コントロール・システムについて,現実を説明可能な仮説に設定できる可能性があることがわかった。この作業を行うために,研究の進捗が遅れてしまった。
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Strategy for Future Research Activity |
延長申請を行った最終年度は,「両利き」事業部のマネジメントに影響を及ぼす組織特性およびマネジメント・コントロール・システムの設計や利用について,特にマネジメント・コントロール・システムの下位システム間の関係を踏まえたうえで仮設設定を行う予定である。また,それらの仮説を検証する目的で,東証1部2部上場の製造企業の事業部を対象とした郵送質問票調査を行い,その結果を論文また学会報告の形で公表する予定である。 「両利き」事業部を取り巻く環境の不確実性・複雑性、組織構造またマネジメント・コントロール・システム,特に診断的なコントロール・システムとインターアクティブなコントロール・システムとの相互の関係性を踏まえた仮説の設定を行なう。これまでの実証研究において,診断的なコントロール・システムとインターアクティブなコントロール・システムは対立的な側面が強調されてきた。しかしながら,前者が後者の前提条件となる可能性がある。すなわち,診断的なコントロールがインターアクティブなコントロールに構造を提供する(Widener 2007)とともに,診断的なコントロールが階層的なインターアクションにつながる可能性である。このことは,Crossan et al. (1999)が主張する組織が新しい戦略をマネジメント・コントロール・システムに制度化するプロセスと組織の下部から新しい戦略の創発が生じるプロセスのつながりを説明できる可能性がある。このことを踏まえた仮説の設定および質問票の設計を行う。これによって,両者の関係についてのいくつかの矛盾した実証研究を解決する予定である。また,最終年度である今年度はこれらの成果を論文また学会報告の形で公表する予定である。
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Causes of Carryover |
本年度,「両利き」経営を可能とするマネジメント・コントロール・システムの設計についての郵送質問票調査を東証1部2部上場の製造企業を対象として実施予定であった。しかしながら,「両利き」事業部のマネジメントを考える上で重要な鍵となる診断的なコントロール・システムとインターアクティブなコントロール・システム間の関係について,文献レビューまたインタビュー調査を通じた考察を行ったために,質問票調査自体が実施できない状況となった。このために,助成金に一定の未使用額が生じた。延長申請を行った次年度は,「両利き」事業部のマネジメントに関する仮説設定に基づき,郵送質問票調査を実施する予定であり,このために助成金を使用する。
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