2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K03827
|
Research Institution | Nara University |
Principal Investigator |
吉村 治正 奈良大学, 社会学部, 教授 (60326626)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
正司 哲朗 奈良大学, 社会学部, 准教授 (20423048)
渋谷 泰秀 青森大学, 社会学部, 教授 (40226189)
渡部 諭 秋田県立大学, 総合科学教育研究センター, 教授 (40240486)
小久保 温 青森大学, ソフトウェア情報学部, 准教授 (50295953)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 社会調査法 / Web調査 / 網羅誤差 / 非回答誤差 / 非標本誤差 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題は、統計学では予測のできないWeb調査の非標本誤差の発生を、社会学で蓄積された社会調査の知識を駆使して明らかにすることで、社会調査データの質の向上に貢献する。Web調査は急速に普及しているが、登録モニターを標本としているため、標本の代表性について深刻な疑問がある。実際、昨今の世論調査を見ると、Web調査の場合と旧来的な電話調査の場合で結果が大きく異なることが多い。社会科学の将来を考えるとWeb調査は極めて重要なデータ収集法であるのに、これまで社会学者がWeb調査への関与や活用に躊躇してきたのは、主にこの代表性の問題が未解決であったことによる。そこで、社会学でこれまで培われた地域調査のノウハウに基づいて、一般人口からの無作為標本抽出に基づく独自のWeb調査を実施し、これと一般的なモニター登録型のWeb調査のデータを対比することで、一般的なWeb調査の非標本誤差、特に網羅誤差(coverage error)と非回答誤差(nonresponse error)を明らかにする。 海外での研究事例の報告を検討していると、Web調査ではprofessional respondents、つまり複数のWeb調査にいつも回答している固定的なグループが存在していることが指摘されている。したがってWeb調査の代表性を論じる場合、(1)このグループが他の人々とどのように異なっているか、(2)このグループも他の人々も含め、個々人はインターネット上では通常の社会生活場面と異なるどのような行動特性を示すのか、という二点を踏まえて議論を展開していく必要がある。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、27年度は調査実施のための事前準備、28年度にWeb調査の実施、29年度はデータ分析および研究成果のまとめにあてることとなっていた。事前準備段階では特にインターネット上での個々人の行動特性の把握と、主にスマートフォンによる回答を想定したWeb調査の回答システムの構築に重点を注いだ。インターネット上での行動特性の把握については、「ネット炎上」や「ネット右翼」などをキーワードに社会学・社会心理学の文献を検討し、特に網羅誤差の影響が現れやすい調査トピックの選定を進めた。Web調査システムの構築については、多肢択一・複数選択・条件分岐に対応したシステムを構築した。このシステムは、質問票の変更に柔軟に対応できることを主眼としている。また、様々な端末に対応するために、画面サイズに応じて文字サイズが自動的に変更されるようなインターフェイスの作成も進めている。 研究分担者の怪我入院など、当初は予想していなかった問題も発生し、その影響で進捗を急ぐ点もあるものの、概して27年度終了の時点で予定通り進展していると判断できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
28年度は当初の計画通り、Web調査を実施する。調査地点は関西と東北の2地点を予定している。ただし、比較対象となる業者委託のWeb調査を委託する際に、調査対象者を東北と関西といった形で限定できるかどうかという問題がある。これについては委託する業者の選定にも関わってくるが、業者との交渉次第で、主たる調査地点を関西もしくは東北のどちらかにする可能性もある。また、主たる調査項目は、「排外主義」とする。これは、関連する文献の検討から、Web調査で比較的バイアスが顕著に現れる可能性が高いと予想されること、また内閣府の世論調査の過去の結果との比較がしやすいなどの理由によって選定された。このテーマについては、在日外国人問題を専門とする研究者(社会学者)に協力を求めており、この協力者の指導のもとで、調査項目の具体的な設定が進められている。 調査実施に関しては、住基台帳から標本を抽出する予定であり、28年8月を目途に調査地となる自治体への交渉と標本抽出作業を開始する。調査サーバのテストも同時期までに完了させ、28年10月には調査を実施する予定である。業者委託の調査も、同じ時期に実施する。そして28年末までにデータファイルを完成させ、29年2月までには一次集計を終わらせる予定である。
|
Causes of Carryover |
27年度繰越金が発生した主たる理由は二つあり、第一は研究分担者の怪我入院により全員が集まる研究会がキャンセルとなったことである。当初より27年度は各自がそれぞれの担当部分についての研究を進めることが予定されていたため、予定された研究会がキャンセルされたことで深刻な影響は出ていない。ただし、本課題の代表者ならびに分担者は本務校が離れているため旅費を高めに見込んでいることから、旅費の繰越金が高くなってしまった。第二の理由は、機材購入が次年度持ち越しになった点にある。本研究ではスマートフォンへの対応が技術的な課題の一つとなっているが、スマートフォンは機種およびOSの入れ替わりが激しく、できるだけ調査実施の時期にあわせて機材(サーバー・ワークステーション・テスト用端末など)を導入する方が望ましいと判断し、機材購入を28年度に繰り越した。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
調査の実施時期を考えると、28年夏までに数回のミーティング(研究会および技術的問題等の打ち合わせ)を行う必要があり、27年度に繰り越した旅費はここで用いられる予定である。機材購入に関しては、28年6月にワークステーションおよびテスト機材の購入を行う予定である。なお、サーバー機材については、現有機材の補強によって対応できないか、現時点で検討中である。調査の実施時期は当初より変更がないため、調査実費として当初から予定していた消耗品費・人件費および調査謝礼・その他の経費(住基閲覧費・業者委託費・郵送費等)は予定通り28年10月の調査実施に際して使用される見込みである。
|