2016 Fiscal Year Research-status Report
環境災害による避難・移住・帰還をめぐる被災者の生活保障と社会政策
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15K03870
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Research Institution | Tokyo Keizai University |
Principal Investigator |
尾崎 寛直 東京経済大学, 経済学部, 准教授 (20385131)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 環境災害 / 生活再建 / 居住保障 / 健康影響 / 帰還政策 |
Outline of Annual Research Achievements |
第2年度にあたる平成28年度は、まずは原発震災の被害の継続する福島等の定点観測を継続し、政府の定めた避難指示一斉解除および区域外避難者に対する住宅補助の廃止が年度末に迫るなかで、避難者にふりかかる脆弱性(vulnerability)の実態を把握する調査を続けた。とくに福島の原発災害に関しては、いまだ数万人規模で県外避難を続ける被災者もおり、それらの被災者の実態を探るべく新潟県や山形県、広島県等に避難した方々のヒアリング調査も行ってきた。 さらに、昨年度から実施している島原の噴火災害の調査において、その災害を機に生まれ、その後の各地の災害時に何度も繰り返し準用・創設された「災害基金制度」について重要な知見を得たが、それに関連して今年度から、参考となる事例として新潟中越地震の被災地の調査を一部加えることにした。新潟中越地震も住民帰還後10年を迎え、住民の生活再建や帰還政策に関してさまざまな検証が可能な時期となっていること、さらに「災害基金制度」については新潟県が地域の実情に合わせた柔軟な制度運用を実現して、住民の生活再建と地域コミュニティの復興においてきわめて重要な役割を果たしていることが確認されたからである。 以上のような現地調査を行いながら、これまで収集してきた知見をもとに、研究成果の公表も進めている。福島・宮城の定点観測や各地の災害復興の知見をもとにした共編著(『岐路に立つ震災復興――地域の再生か消滅か』東京大学出版会)の発行をはじめとして、災害復興にかかわる行政担当者を対象にした協議会での講演などで政策提言を行うとともに、一般に問題提起をし、批判を仰ぐ作業を続けている。 次年度(29年度)が本研究の最終年度であり、これまで集約してきた各事例の知見を総合して研究報告をまとめ、公表し、政策提言に結びつけていくことが課題となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在進行形の被害が継続する福島・宮城などの東日本大震災の被災地の復興のあり方に関して、災害後10年、20年が経過した被災地の復興プロセスを検証することを通じて現在の課題を逆照射するという本研究の視角は、徐々に成果に結びつきつつある。おおよそこの研究の素材となり得る研究対象については、現地調査を含めた情報収集やヒアリング、資料渉猟および一次資料の発掘などを行うことができた(ただし、被災者の生活再建に関わる法制度の運用についてはまだまだ被災各地の知見の収集が必要であると考えている。さらに、今年度あらたに焦点を当てた「災害基金制度」については運用実態の調査は継続する必要がある)。 また、上述の通り一定程度は研究成果としても発表し、提言を行う活動も少しずつ進んできており、「おおむね順調」との自己評価を行わせていただいた。
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Strategy for Future Research Activity |
上述の到達点をふまえて、次年度は最終年度でもあり、限られた期間の中で研究対象の情報収集を前半のうちに実施する必要がある。ただし、これまで継続調査してきた地域については調査範囲をことさら拡大せず、一部フォロー調査を継続する程度に留め、これまで収集してきた一次資料の分析と現地ヒアリング等を通じて得た一次情報との突き合わせる作業などを行いながら研究成果のまとめを行っていく予定である。 年度後半には研究発表・論文の執筆を進める方向で作業を進行させていきたい。
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