2015 Fiscal Year Research-status Report
「移民国」ドイツの排外主義 ーグローバル化のなかの国民国家ー
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15K03874
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
佐藤 成基 法政大学, 社会学部, 教授 (90292466)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 排外主義 / 右翼ポピュリズム / ドイツ / 移民 / 難民 / 国民国家 / シティズンシップ / ナショナリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年8月から9月にかけての約半月のあいだ、私はドイツのベルリンに滞在し、資料収集等を行った。この期間は、ドイツ政府がシェンゲン協定を破ってハンガリーに滞留する難民の受け入れを決断した時に当たっており、この機会に私は、多くの難民が庇護請求手続きを待って列をなしている市内の役所や、いくつかの収容施設を訪れ、その状況を視察することができた。また、ライプチッヒで9月7日晩に行われた排外主義運動「LEGIDA」(後述する「PEGIDA」のライプチッヒ版)のデモの様子を視察した。 ドイツ出張中はベルリン州立図書館での資料収集を含め、最近発行された「反イスラム主義」や「右翼ポピュリズム」に関するドイツ語文献を中心に入手し、その内容を精査・検討した。また、1年間を通じて、同様の文献を購入し、その一部を講読した。 研究の成果としては、『エムネット』(移住者と連帯する全国ネットワーク発行)2015年183号に「難民受け入れ国としてのドイツ」を掲載した。見開き2頁の小文ではあるが、ドイツの受け入れ体制とその歴史を、現状の移民受け入れの問題点を含めて概観したものである。排外主義に関しては、2000年代からの「反イスラム主義」の高まり、近年の難民増大に伴って発生した(自称)市民運動「PEGIDA」や新政党AfDの右翼過激化などを概観し、分析した「近年ドイツの排外主義とその政治・社会的背景」を、私自身が主催する「国家論研究会」で報告した。同報告の内容は論文として2016年中にミネルヴァ書房から発行される本のなかに掲載される予定である。 国家論研究会では排外主義やそれに関連したテーマで報告者を募っている。2015年度は7月に森千香子氏(一橋大学)を招いてフランスの排外主義について報告していただき、2016年3月には永吉希久子氏(東北大学)を招いて報告をいただいた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2015年度は、学内行政上の役職を担った関係上、研究時間を確保するのに苦労したが、当研究については比較的順調に進展したと言える。近年の難民の増大に伴い、排外主義をめぐる状況も劇的に変化しており、その変化を辿るだけでもそれなりの時間と労力を必要とする。幸いドイツのメディアをインターネットを通じて講読・視聴が可能なので、その手段を用いて日々経過を観察した。 そのため、研究成果をまとめる時間が不足したが、年度末の3月に国家論研究会で最近の変化まで含めた2000年代からのドイツの排外主義の経過を分析した研究成果を報告できた。これが、今年度最大の成果であったといえる。この報告はすでに「なぜ、イスラム化に反対するのか ー近年のドイツにおける排外主義の政治・社会的背景」というタイトルで論文にされており、上でも述べたように、2016年発行予定の編著書(ミネルヴァ書房刊)に掲載される予定である。 この報告と論文では2000年代になって排外主義が「反イスラム」として発展してきた経過とその意味について論じるとともに、近年の排外主義が、国家が提供する公共財の配分をめぐる不満に動機づけられているという仮説を検討し、なぜ近年の排外主義が、これまで「極右」勢力とほとんど繋がりを持たなかった社会の中間部へと浸透・拡大しているのかを分析している。しかし、検証がまだ不十分で、単に「仮説」として提示されているだけの段階である。今後、さらにこの仮説の検証を確実なものにしていくことが必要である。 また、集めた資料の多くが、まだ充分に検討されていない状況である。2016年度もまた、さらに資料が収集されることになると思われるが、それと合わせて、入手した資料を精査・分析することが今後の課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
前項でも述べたように、現在ドイツの排外主義をめぐる状況は劇的に変化している。特にAfDという新政党が連邦政府の難民政策を痛烈に批判し、2016年3月の州議会選挙で急激に支持を延ばしている。来年の連邦議会選挙でも、連邦議会で議席を獲得するのではないかという予測もなされている。また、「PEGIDA」のデモも以前続いている。このような右翼ポピュリスト的な排外主義の今後の動向を追うことは、当然求められるべき課題である。また、これらの動向が、前世紀前半の民族至上主義(フェルキッシュ)思想の伝統を受け継ぐドイツの「新右翼」の近年の復興とどのようにつながっているのかもまた、研究すべきテーマの1つである。 排外主義や右翼ポピュリズムの高まりに伴い、ドイツ語でも多くの文献(学術的なもの、ジャーナリスティックなもの、エッセイ風のものなど)が今後も刊行されることは間違いない。それらを渉猟・収集し精査することも必要になる。 これらを踏まえて、ドイツの排外主義の動向を概観し、分析した研究成果を発表していくことが今後の2年間(この科研費での研究期間)の課題である。ナチスの歴史を負うドイツでは、排外主義に関する独特のタブーがある。それが、これまで(フランス、オランダ、オーストリア等の周辺国と異なり)有力な右翼政党が存在してこなかった理由の1つでもある。しかし、そのような状況は近年変化しつつある。そのような歴史的な意義にも踏み込んだ論考を行うことが課題である。 また、戦後ドイツの排外主義について包括的に概観し,分析した日本語での著作は、現在のところ存在しない。そのような著作を完成させることがこの研究の最終的な目標である。本研究期間が終わるまでに、その構想を固め、原稿の執筆を開始できるまでの段階に至り、出版への向けた目途を立てることが、今後の予定である。
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Causes of Carryover |
3月6日に「国家論研究会」に報告者として招いた永吉希久子さん(東北大学)に支払った謝金は、報告者の手取りで5万円であった。しかしこの額に税が課されたため、2015年度の残額50069円では全てを払いきれなかった。そのため次年度にこの金額を持ち越し、今年度の経費と合わせて支払うことになった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
すでに、研究代表者による立替払いで謝金は報告者当人に支払われている。2016年度に入り次第、立て替え払い分として研究代表者に支払われることになっている。
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Research Products
(5 results)