2016 Fiscal Year Research-status Report
保育・教育費負担の「脱家族化」は人口減対策になるか?日本の自治体と瑞仏の調査から
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15K03889
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Research Institution | Chukyo University |
Principal Investigator |
大岡 頼光 中京大学, 現代社会学部, 教授 (80329656)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | フランス / 少子化対策 / 出産奨励主義 / 社会保障目的税 / スウェーデン / シルバー民主主義 / 普遍主義 / 制度の政治的支持 |
Outline of Annual Research Achievements |
まず、フランスが児童福祉費・教育費の財源を捻出した思想と戦略を研究した。パリ家族手当金庫、全国家族手当金庫、家族高等評議会、家族・子ども・女性権利省にインタビューした。文献研究も踏まえ、高齢化でも、子ども・若者向けの政策の財源が不足しなかった理由を明らかにした。 第一に、フランスの政治的指導者は、常に出産奨励主義者だった。ドイツに対抗し出産を奨励すべきという考えは19世紀末に遡る。その後、厳しい財政状況の中でも、少子化対策充実への強い意志が、第2次世界大戦でドイツ占領下のヴィシー政権にも、1980年代の社会党政権にも一貫してあった。 第二に、1991年に社会保障目的税CSGが導入された。1994年には、CSGと付加価値税率の引き上げ、長期キャピタルゲイン優遇制度の廃止等が行われた。CSGは導入以降、既存の個人所得税を上回るまでに発展し、これまで社会保障拠出金で殆ど賄われていた社会保障財源の租税代替化をもたらした。1990年代以降の税収の増加の多くはCSGである。 次に、高齢化でも家族・教育政策を充実したスウェーデンを研究した。高齢者優先のシルバー民主主義を止めるには、多数派の高齢者も納得できる論理が要る。子どもや若者向けの政策充実は、労働力確保で高齢者の年金制度等の維持が目的と説得すべきだ。日本の高齢者が納得する論理をスウェーデンに探った。スウェーデンは、①低所得者に税金が払える現金給付を支給し、給付に課税して課税ベースを拡大し、②高所得者も年金保険料本人負担ゼロとする普遍主義をとり、③負担者と受益者を分断せず、制度の政治的支持を高めた。 また、日本の高齢者の所得格差と貧困をみて、税・社会保険料研究の今後の課題を確認した。制度の政治的支持が弱まるため、高所得者への基礎年金支給額を削減すべきでなく、その年金への課税を検討すべきだ。以上を実現するためには組織改革も必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、日本の国レベルでの人口減対策の思想とその実行戦略を練るために、保育・教育費負担の「脱家族化」や少子化対策に成功してきたスウェーデンやフランスでの政策思想と実行戦略の研究に注力する予定であった。そのため、二国での資料収集、関係者へのインタビューなど現地調査を優先して行う方針を立てた。 幸い、フランスでは、パリ家族手当金庫、全国家族手当金庫、家族高等評議会、家族・子ども・女性権利省という家族政策に関わる4つの重要な組織にインタビューすることができた。文献研究も踏まえ、高齢化にもかかわらず、子ども・若者向けの政策の財源が不足しなかった理由を、国レベルの政策思想と実行戦略として明らかにできた。 また、スウェーデンでは、パリの社会科学高等研究院-フランス国立科学研究センターのエドガール・モラン・センターで食事文化の比較研究を行ったスウェーデン人社会学者にインタビューができた。上記のフランスでのインタビューの成果と合わせて、家族・教育政策や食事文化において、プロテスタントの強いスウェーデンでは、独立した個人に焦点が当てられ、教会を重視するカトリックの強いフランスでは、家族や親子や友人というつながりに焦点が当てられることがわかった。両国での語りの違いは、デュルケムが『自殺論』で指摘した自殺率の違いを生み出す社会の違いに似ていることがわかった。
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Strategy for Future Research Activity |
保育・教育費負担を「脱家族化」し、公費で負担するためには、財源が必要である。その財源を、フランスは社会保障目的税CSGを新たに創設して、まかなった。どのような論理の元に新税を構想し、異なる利害関係者をどう説得していったのかを、現地調査での資料収集・インタビューによって明らかにしていきたい。日本では高齢者に金融資産が集中しているため、金融資産に課税するCSGのような新税をもし導入できたとすれば、金融資産を多く持つ裕福な高齢者から税金を取り、現役世代の家計の保育・教育費負担を公費で補助するという再配分が可能となる。同様な再配分がフランスでもあったのか、高齢者の抵抗はなかったのかを確認したい。 スウェーデンでは、1991 年の税制改正で所得を勤労所得と資本所得に分け、それぞれ別々の税率で課税する二元的所得税論が導入された。資本課税の税率は一律30%と高く、資本所得に対する課税ベースが広げられた。そのため、勤労所得税と資本所得税を合わせた個人負担の全所得税への課税は、包括的所得税のときより応能負担原則に基づくものになり、課税の垂直的公平さが確固たるものになった。上記のフランスと同様の視点から、スウェーデンでの現地調査を行う。 以上の調査結果を元に、フランスやスウェーデンの税制改革の論理と構想の実現状況を参考にしつつ、日本にふさわしい税制改革の構想を考える。 さらに、日本の少子化対策において先進的な自治体が、そのための財源をどう工夫して住民の理解を得ながら確保したのかを、現地調査で明らかにする。その調査結果に基づきつつ、日本の税制改革の構想を、いかに日本の土壌に根付かせることができるかを考えていきたい。
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Causes of Carryover |
日本の各自治体の現地調査を、次年度に集中して行うようにしたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
日本の国レベルの政策思想とその実行戦略を練るため、「脱家族化」や少子化対策に成功したスウェーデンやフランスでの国レベルの政策思想と実行戦略の研究に、まず注力する。特に、「今後の研究の推進方策」で述べたように、2国での税制改革についての資料収集、関係者へのインタビューなど現地調査を優先して行う。 国レベルでの研究をまず行った上で、日本の各自治体の現地調査を行っていくこととする。
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Research Products
(2 results)