2015 Fiscal Year Research-status Report
大学・研究機関の国際化と研究者の流動性:個人の移動経験とその評価を中心に
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15K03899
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
酒井 千絵 関西大学, 社会学部, 准教授 (30510680)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 社会学 / 国際移動 / 高等教育 / グローバル化 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、日本の研究機関と研究者の国際化やグローバルな流動性の進行について、政策面と各大学の対応を中心に、調査研究を行った。まず、各大学が公表している資料の収集により、日本の高等教育・研究機関にとって、「グローバル」であることは、目指すべきものとして広く共有されている。しかし、その内容は多様な要素を含んでいる(留学生の増加、英語教育の拡充、日本人学生や研究者の海外派遣や研究交流、など)と同時に、目指すべきグローバル化のイメージは、国際的な基準というよりは、日本国内での到達目標や競争によって規定されているということがわかった。 また、日本の取り組みを考察する上で、国際比較を行う必要がみえてきた。研究発表で訪問した韓国の地方大学での視察から、国際化・グローバル化にあたって、韓国社会とは縁の薄い英語圏の研究者を雇用し、国際会議の開催や英語による授業等の担当としていることがわかった。日本でも同種の取り組みがなされているが、両国でどのような違いがあるのか、こうしたプロジェクトに関わる研究者のキャリアパスやそれまでの研究とのマッチングにはどのような傾向があるのか、といった点についても、調査を広げていく必要がみえてきた。 また、高等教育の受け手である学生や、かつて教育を受けてきた成人市民が、大学の国際化・グローバル化の現状に対して何を求めているのか、それは現在進行中のグローバルな変化とどの程度呼応しているのかという点について調査を行うため、インターネットリサーチを計画・実行した。戦略的に18歳以降に留学を経験した者と、していない者とに調査対象を分割し、留学経験とグローバル化に対して人々が抱いている期待を調査した。個人経験のレベルで日本と国外の研究教育機関の比較はどのように行われているのか、留学経験の効果はどのように把握されているのか等について、次年度以降分析を行っていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2015年度は日本国内及び韓国の国際化・グローバル化の状況について資料の収集を開始したが、現時点で網羅的な資料収集が行えているとはいえない。2016年度以降、引き続き調査を行っていく必要がある。 また、国際会議報告のための韓国訪問時の資料収集は行ったものの、それ以外の海外調査を行うことができなかった。これは、日本の現状についての資料の検討を行う中で、どの国・地域にターゲットを絞るべきか、決定しかねたという事情もある。来年度以降、早い時期に日本との比較対象や、国外での研究活動に従事する日本人研究者の研究キャリアの上で重要な役割を果たしてきた国・地域を調査地として定める必要がある。 他方、インターネットリサーチを利用したサーベイを行い、留学や国際化についての意識調査データを収集できたことは大きな成果といえる。2016年度は、回収したデータを用いて分析をすすめていく。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画では、欧米と日本との比較に焦点を合わせていたが、韓国、中国に加え、シンガポールなどアジア域内の国を比較対象に加えることが、現在の日本の状況と課題を分析していく上で有効ではないかという感触を得た。こうした状況をよりよく理解するためには、ヨーロッパのように早くから国境を越えた研究者の交流が行われている地域についても、先行研究や聞き取りを行い、日本とアジアの関係との相違を把握することを計画に加えていく必要がある。 また研究者個人の留学経験やキャリアパスを、大学の国際化政策と区別して分析、議論していく枠組を検討していかないと、調査対象者や調査協力者から何を聞きたいのかという問題意識がぶれてしまう恐れがある。すでに聞き取ったデータを早い時期に分析し、調査の方針を検討し直す必要がある。
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Causes of Carryover |
2016年1月より調査計画をたて、3月末に実査を行ったインターネットリサーチが、調査結果の納品のタイミングにより、翌年度の支払いになってしまったため、次年度使用額がやや大きくなった。 年度内に海外調査を行うことができず、翌年度以降に繰り延べることとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度中に実査を行ったインターネットリサーチに関しては、すでに支出の予定がある。また平成27年度に行った聞き取り調査の書き起こしを行い、日本国内での聞き取り調査を継続して行う。 平成28年度はウィーンでの国際学会(国際社会学会)に出席の予定があり、関連する部会を行うとともに、ヨーロッパの大学におけるグローバル化の現状を観察、聞き取りを行う。また、アジア域内で複数回の海外調査を計画している。
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