2015 Fiscal Year Research-status Report
要援護高齢者が主体となる地域で相互に学び合い・支え合う仕組みに関する研究
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15K03952
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Research Institution | Jumonji University |
Principal Investigator |
佐藤 陽 十文字学園女子大学, 人間生活学部, 教授 (70364859)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 要援護高齢者 / 双方向性 / 学び合い / 支え合い / 福祉教育 / ボランティア育成講座 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、要援護高齢者に着目し、高齢者が相互に支え合う意義について理論仮説の生成を試みた。共に互いの存在を与え合い支え合う、新たな地域づくりをしていくためには、ソーシャルインクルージョンの理念に依拠し、エンパワメントに着目し、生きる主体として人や社会に役立とうとする自分がもつ力を活かせる社会参加の場と空間を、日常的で身近な生活環境に創出する必要がある。そのためには各種専門職と共に多様な人たちの支援体制が重要になる。この支え合いの具現化には、特に要援護高齢者を支えられる側だけでなく支え側として取り組む実践のあり方を検証し、こうした価値の転換を意図する福祉教育が必要と考えた。 この仮説に基づき、要援護高齢者を含む地域における社会活動(ボランティア)や学習機会の実態把握について、埼玉県内の市区町村社協、地域包括支援センター、「地域支え合いの仕組み」実施団体を対象に、実態把握のアンケート調査を試みた結果、各団体が要援護高齢者を「支えられる側」だけでなく「支える側」としても捉え、「社会参加と生きがいの機会を創出」を必要としているが、具体的支援は半数に及ばず、講座・研修の実施はほとんどない状況であることが分かった。 このような講座の実施の妥当性を実証するため、埼玉県A町と協働し、要援護高齢者を含む高齢者が社会参加する機会として、「いつまでもイキイキと暮らす支え合い講座(ボランティア育成講座)」をアクションリサーチの手法を活用して実施しアンケート調査とグループワークから、双方向性の学び合いと支え合いについて分析を試みた。その結果、要援護高齢者を含む受講者の社会参加につながり、「わいわい手習い塾」という高齢者と子どもが交流する活動が創出され、講座の有効性が確認された。 また、これらのアンケートや講座から、支えることが可能な要援護高齢者は、虚弱、要支援1,2程度を現場が想定していることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究準備期間の本研究に関する理論仮説を踏まえ、本年度、「埼玉県福祉でまちづくり研究会」においてプレリサーチとともに再検討し、更なる理論仮説の生成を試みた。 要援護高齢者を含む地域における社会活動(ボランティア)や学習機会の実態把握について、埼玉県内の市区町村社協、地域包括支援センター、「地域支え合いの仕組み」実施団体を対象に、実態把握のアンケート調査を試み、要援護高齢者を主体として捉え、その人の希望や願いを配慮して、何らかの社会参加と生きがいにつながる活動につないだ事例を確認することが出来た。 また、プレリサーチの結果、本研究の実証を試みる要援護高齢者を含む高齢者が社会参加する機会としてのボランティア育成講座を実施することが可能となった。当初予定していた他都道県等へのフィールドワークは実施出来なかったが、埼玉県A町と協働し、半年近く講座の企画運営を通じ、担当職員と要援護高齢者を含む高齢の受講者の方々と6回程度の継続的な直接の話し合いを含めたフィールドワークで、講座を生活支援コーディネーターの機能充実に活用することで担当職員の業務に生かされ、体験学習の展開過程を活用した講座プログラムが受講者の社会参加を促進し、要援護高齢者を受講者として意識的に呼びかけたことで申込者の約17%の参加が実現した。講座後に虚弱の要援護高齢者の受講者若干名の社会参加につながり、有意義な成果を得ることができた。また、参加したいけれど出来なかった要支援1,2の人からの声もあり、送迎の必要性、本人のもつ特技や技術を体験参加に活かす、受講を支える仲介者の必要性、世代間交流やイベントを共につくることで、更なる参加の可能性が得られることが確認出来た。 本年度の研究については十文字学園大学紀要に理論仮説に関する原著論文が掲載され、研究成果年度報告書(全230頁)をまとめた。これにより、研究はおおむね順調に進展しているとした。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、今回の講座プログラムの検証結果を基に、課題となった点を踏まえ、更にモデル講座として実践方法の妥当性が検証出来るように、「埼玉県福祉でまちづくり研究会」メンバーの自治体や、埼玉県内の社会福祉協議会、埼玉県「地域支え合いの仕組み」実施団体、及び地域包括支援センターでアンケート調査に協力いただいたところに呼びかけ、実施可能な地域で講座展開を試み有用性を確認する。 また、埼玉県内三団体の実態把握のアンケート調査から確認できたことを参考に、高齢者が互いに支え合う双方向性だけでなく、多世代との支え、支えられる関係性を視野に、今回の調査回答記述を精査し、支え合いにつなぐ実践を試みはじめている実践現場の担当者と、継続的な関わりがあれば、対象の要援護高齢者から聴き取りを実施する。 こうした検証に向けて、更に先行研究を行い、要援護高齢者が主体となり、単に介護保険制度の枠内で高齢者を含む住民がサービスの担い手になるというだけではなく、自らが生きていく上で人間らしく豊かに生きられるようにする営みとして、地域で学び合い・支え合う仕組みの構造化を検討していく。 そして、平成27年度の協力団体等へ研究成果報告会を実施し、本研究に関する知見を広く多様な専門職や地域福祉活動等の実践者にも周知し、さらに見識が深まるように討議する機会を設ける。
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Causes of Carryover |
平成27年度のアンケート集計等が現場からの回収に時間がかかり、年度末になってしまったため、報告書の作成や、アンケート調査、グループワーク等のテープ起こしに関する人件費と印刷製本費について次年度使用額が生じてしまった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
更なる先行研究のために図書の購入、学会発表のための旅費、実践事例の聞き取りのためのフィールドワークの旅費、インタビューの聴き取り結果を逐語録等の研究協力に関する人件費、平成28年度報告書作成の印刷製本費のために使用する。 また、遅れていた平成27年度に実施したアンケートやテープ起こしに関する人件費、平成27年度研究成果報告書の印刷製本費としても使用する。
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Remarks |
平成27年度研究成果年度報告書 要援護高齢者が主体となる地域で相互に学び合い・支え合う仕組みに関する研究(全230頁) 佐藤陽研究室 2016年
埼玉県福祉でまちづくり研究会報告書Ⅵ(全132頁) 佐藤陽研究室 2016年
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