2016 Fiscal Year Research-status Report
グローバル・キャリアの転進:アジア系医療従事者の心の動きとマクロ環境
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15K04035
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Research Institution | J. F. Oberlin University |
Principal Investigator |
浅井 亜紀子 桜美林大学, 言語学系, 教授 (10369457)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮本 節子 兵庫県立大学, 環境人間学部, 教授 (60305688)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | インドネシア / 看護師 / 介護福祉士 / 経済連携協定 / 日本体験 / 技術移転 / 日本語 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の実績概要を、(1)国家試験合格後に日本で働いているEPAインドネシア人の定住化の実態、(2)研修終了帰国後のキャリア展開、(3)帰国後のキャリア選択に影響するマクロ要因(4)EPAのインドネシアへの技術移転の実態、に分けて報告する。 (1)2008年に来日した1陣は2017年1月で9年が経過し、定住化が進んでいる。日本に定住する条件は、受け入れ病院・施設との折り合いの良さ(職務内容、残業など労働時間、宗教的実践への配慮)、呼び寄せ家族の問題(パートナーの日本語、同国人ネットワーク、子どもの教育)が関係している。特に稼ぎ手の性別によって、家族にかかる負担が違う。稼ぎ手が妻の場合、夫の就労時間制限(1週間に28時間)と日本語の問題があるうえ、子どもを保育園に入れられるかどうかが鍵となる。イスラム教徒の場合、子どもが小学校高学年になると、宗教教育の困難さがある。 (2)インドネシア帰国後、非看護学校卒で介護福祉研修を受けてEPAに参加した2&3陣の者の多くは、日系企業の翻訳・通訳、日本語教師、助産師、学校の図書館の司書、宝石や日常品の商売など多様なキャリア展開があった。 (3) 非看護職を選択するイ国内の背景には、看護職の賃金の低さ、国内の医療関連の資格制度の強化(5年で資格を更新する制度)による負担感があった。インドネシア看護協会はこの問題を認識しており、政府に働きかけていた。地方在住者や子育て中の主婦がオンラインビジネスに従事することができるICT環境の発達があった。 (4) 高齢者施設やEPA枠外の若い介護士養成コース開設の事例(論文として発表)など、日本の研修制度の介護部門介護士養成をねらった動きが活発化しており、日本での経験、日本語や介護技術を期待してEPA帰国者が起用されていた。日本語や職務規律(時間厳守など)だけでなく、介護技術を家族の介護に役立てるだけでなく、職場への転用(重い荷物を運ぶ体位変換)の事例があった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
国内のEPA合格者の1、2陣を中心に9年間追跡してきた事例をもとに、定住化の条件の分析を進めている。看護師と介護福祉士では、給与や職場環境が違うが、両者に共通なのは家族単位で定住化が決まることがわかった、配偶者、子ども、母国の家族の状態について条件を整理するために、より細かな事例の整理を行う必要がある。 2016年度の2回にわたるインドネシア調査により、帰国者のキャリア選択の実態がおおむねわかってきた。帰国者に影響を与える社会経済状況や保健医療制度の変化(SKP制度)、また帰国者自身の再来日への希望の強さが見出された。インドネシアへの技術移転の側面について、より深く検討していく。
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Strategy for Future Research Activity |
インドネシア人看護師・介護福祉士の日本体験についての分析 データの分析と論文執筆:インドネシア人看護師、介護福祉士の職業アイデンティティについての執筆を進める。定住化の条件については、今年度学会で発表し、学術図書の出版を目指す。職場との折り合いの良さは定住化を促進するが、とくに時間軸による変化、ジェンダー、呼び寄せ家族や母国に残した家族の条件があがっている。これらの条件を分析し論文にしていく。 前年度インドネシア調査においては、ジャカルタと、ジャカルタ近郊の地方都市(スラバヤ、ブカシ、バンドン)においてフィールドワークを行った。帰国者のキャリア選択の条件、日本体験がどのように生かされているかについて技術移転の側面から検討し論文にしていく。学術書、論文化にあたり、インドネシアへのフォローアップが必要と判断される場合は短い期間でのインドネシア調査を行う。 学会発表:International Academy for Intercultural Research (2017年6月25~29日, New York, USA)「インドネシア人の職業アイデンティティショックとその対処」、多文化関係学会(2017年9月8~10日@藤女子大学・札幌)「医療人材の国家間と国内移動の実態(仮)」「インドネシア人介護福祉士の職業アイデンティティ(仮)」、異文化コミュニケーション学会(2017年10月7~8日@上智大学)「日本とインドネシアの職務規範(仮)」、日本社会心理学会(2017年10月28日~29日@広島大学)「インドネシア人看護師・介護福祉士の定住化の条件」「EPA介護人材は日本体験を母国でどう生かしているのか」。
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Causes of Carryover |
研究代表者の2017年3月末のジャカルタ出張の出費すべてを2016年度(当該年度)で支払うと不足するため、旅費など一部を次年度に回したため、余剰が出た。 研究分担者は2017年3月末にジャカルタ出張を予定していたが、研究分担者の予定を変更したため、余剰が出た。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究代表者の3月末のジャカルタ出張の一部を、2017年度から支払う予定である。2017年度は、研究代表者は国内学会での発表、海外での学会発表を予定している。また、学術書執筆にあたり、インドネシアでフォローアップ調査を行う予定である。研究分担者も国内学会での発表、および、国内のフォローアップ調査を行う予定である。
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