2015 Fiscal Year Research-status Report
「行動免疫仮説」に基づく感情の適応的機能に関する総合的検討
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15K04042
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
福川 康之 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (90393165)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小田 亮 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (50303920)
平石 界 慶應義塾大学, 文学部, 准教授 (50343108)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 行動免疫 / 食物選択嗜好 / 性的魅力 / 感染症 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.食行動と行動免疫との関連を検討するために,measure of food choice values (mFCVの日本語版を作成した.本尺度では,調理のしやすさ,入手のしやすさ,知覚アピール,伝統性,気分の安定,といった食行動だけでなく,健康に良いこと,環境への配慮,といった,生存の維持や繁殖の成功と関連の深い食行動が測定される.さらに,安全性(食べても病気にならない),という,行動免疫と直接結びついた食行動が測定できる点で有用である.本研究では大学生,勤労者,高齢者,といった幅広い年齢層からデータを収集し,尺度の妥当性と信頼性を検討した.この結果,日本版mFCVはオリジナルの英語版と同一の因子構造と一定の信頼性を有することが明らかとなった. 2.女性にとって,繁殖のパートナーとなる男性の子供への投資能力は重要であるが,男性に投資能力があっても,自分以外の女性に投資されたのでは意味がない.そこで,架空の男性に対する好みを調べることにより,投資能力と誠実さのどちらが重視されているのか検討した.10代から40代までの女性820人に対してWeb調査を実施したところ,男性の収入の多さよりも,それを家族に投資する割合の大きさの方が好みに影響を与えていた.行動免疫は繁殖成功度を高めるためのメカニズムであることから,本研究の結果は,性的魅力と行動免疫との関連を検討していく必要性を示唆するものといえる. 3.福島第一原発事故を発端とする福島県産農作物などへの風評被害について,それが引き起こされる背景には感染症や「汚れ」にたいする過剰な行動・心理面での反応があるのではないかという仮説について,実証データを交えつつ論じた.本研究の結果は,農作物の安全性への関心を,行動免疫の観点から検討する必要を示唆するものである.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
3名の研究組織からなる課題であるが,各々が研究実績に記載したような成果を上げている点で,「おおむね順調に進展している」と判断した.各研究者は,これ以外にも,以下の研究を行い,成果をあげている. 1. Trier Social Stress Testを用いて,大学生の重心動揺にストレスが与える効果を検討した.アウトカムの傍証として状態不安,心拍数,唾液アミラーゼを同時に測定し,ストレス負荷前後の変化を検討した.行動免疫は生存を脅かす刺激下で発動しやすいと予想されることから,今後はどのようなストレス負荷が行動免疫と関連するかを明らかにしていく必要がある. 2.参加者にサイコロを振ってもらい,出た目を報告させた.その際,出た目に20円を掛けた金額を実験者が日本赤十字社に寄付すると教示した.この結果,実験室に目の絵がない場合には,嘘をついて大きな目を報告する人がみられたが,目の絵がある場合にはそのような嘘が抑制された.これにより,嘘をつかない,という社会規範と利他性が相反するような状況では,目の絵には社会規範の遵守を促進する効果があることが明らかになった. 3. 自主ワークショップ「他者感へのエンボディード・アプローチ」を開催した.そこでは,人間の行動や心理が,自己の所属集団や状況により影響を受けるのみならず,体内細菌や寄生体などにより影響を受けることや,体内の異物にかかわる免疫系と行動心理の関係について考察を加えた.これにより,狭義の免疫システムと行動免疫との関連について検討を進めることの重要性が確認された.
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Strategy for Future Research Activity |
2015年度の研究実績ならびに進捗状況に鑑みて,2016年度は,以下の研究を進める予定である. 1. 高齢者に対する差別や偏見(エイジズム)は,彼らがウィルスキャリアであると誤って(ないし過剰に)知覚されることに起因する行動免疫の表現であるとの仮説を国際比較研究にて検証する.日本,フィリピン,マレーシアの大学生を対象とした調査を行い,各地域の宗教や高齢化率などに配慮しながらデータを比較する. 2. ヒトの認知過程における分析的処理とヒューリスティック処理との関連について,潜在連合テスト(IAT)を使用した実験を通じて検討する.実験は,日本およびマカオで行い,被験者(学生)の論理推定能力や高齢者に対する正負のプライミングが,無意識的なエイジズムに及ぼす影響を検討する. 3.web調査による大規模データの収集を行い,ヒトのパーソナリティや食物選択嗜好と子感染脆弱意識との関連を検討する.特に,双子データを行動遺伝モデルに基づいて解析し,ヒトの行動免疫に対する遺伝要因と環境要因の影響を明らかにする.
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Causes of Carryover |
分担研究者Aへの配分額に繰り越しが生じた理由は,実験参加者について充分な人数が確保できなかったので,一部の実験を次年度に実施するためである. 分担研究者Bへの配分額に繰り越しが生じた理由は,Web調査費用が予定より少額で済んだためである.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
分担研究者Aへの配分額に繰り越しについては,本年度の研究遂行にあたり,実験補助者への謝金および共同研究者との打ち合わせ旅費に使用する. 分担研究者Aへの配分額に繰り越しについては,本年度ののWeb調査費用とする予定である.
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Research Products
(8 results)