2016 Fiscal Year Research-status Report
「行動免疫仮説」に基づく感情の適応的機能に関する総合的検討
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15K04042
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
福川 康之 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (90393165)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小田 亮 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (50303920)
平石 界 慶應義塾大学, 文学部(三田), 准教授 (50343108)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 行動免疫 / 適応 / 進化 / 感情 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.日本・フィリピン・マレーシアの大学生を対象に質問紙調査を行い,感染脅威や外集団脅威と高齢者に対する否定的態度(エイジズム)との関連を検討した.この結果,フィリピンおよびマレーシアサンプルの男性において,感染脅威とエイジズムとの間に有意な正の相関が認められた.他方,日本サンプルの男性においては,外集団脅威とエイジズムとの間に有意な正の相関が認められた.フィリピンやマレーシアのように感染リスクが高い熱帯地域に国々では,高齢者をウィルスキャリアとみなして嫌悪感情や否定的態度が生じやすいと思われる.これに対して日本では,他の2国よりも民族多様性に乏しいことから,高齢者を外集団とみなして排除しようとする否定的な心理メカニズムが生じやすいと思われる.ただし,女性に関しては上記の結果は適用しがたい.このことは,行動免疫仮説を検証するうえで,地域性や性差に配慮する必要があることを示唆するものである. 2.日本人を対象とした大規模オンライン調査を行い,放射能汚染と関連する脅威(核施設の設置,汚染された食物や居住地域など)と,関連しない脅威(交通事故,火事,地震など)に関連する質問に回答を求めた.この結果,恐怖や不安の感情は,放射能と関連する脅威とのみ有意な正の関連を示すことが明らかとなった.加えて,放射能と関連する脅威は,メディアに対する不信感と正の関連を示した.これらの結果は,放射能汚染に対する嫌悪感情が,本来は感染脅威に対して発動するはずの行動免疫システムを活性化させた可能性を示唆するものである.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「行動免疫」に関する本研究の目的は,ヒトの感情を,感染脅威から身を守ったり,繁殖成功度を向上させたりするために進化した心の機能の発現と仮定し,その適応性を検証することである.「研究実績の概要」に記載した成果は,いずれも恐怖や嫌悪などの感情が感染脅威と結びついて他者への差別や不信感といった反公共的心性をもたらす可能性を示唆するものである.この点から,現在までの本研究課題の進捗状況は「おおむね順調に進展している」と判断できる.このほか,本研究課題に関わる研究班は,公共心と関連する要因に関して以下の研究成果をあげている. 1.目の絵をつけた募金箱を居酒屋に置き,日ごとの来客数と寄付額との関係について検討した.その結果,来客数が少ない日の方が目の絵の効果は高いことが明らかとなった.これは,目の絵が「見られている」という感覚を引き起こす効果が,周囲にいる他者の数に影響されることを示唆するものである. 2.居酒屋に募金箱を置き,募金箱に目の絵を付けた条件と目ではない絵をつけた条件,中にあらかじめ入れておく金額を多くした条件と少なくした条件の組み合わせについて,寄付金額を調べた.この結果,金額が多い条件の方が少ない条件よりも多くの寄付を集め,また,目の絵の寄付金増額効果は金額が少ない条件で顕著だった.これらは,目の絵には規範を促進するのではなく,利他性そのものを促進する効果があることを示唆するものである. 上記の結果は,行動免疫と公共場面での感情や行動に関する研究を進めるうえで有益な知見である.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究実績や進捗状況を鑑みて,今後は以下の研究を進める予定である. 1.差別や偏見にかかわる態度の発生メカニズムないしこれらを変容させる方略を考えるうえでは,ヒトの意識的な心理過程だけでなく,無意識的な心理過程に着目する必要がある.そこで潜在連合テスト(IAT)を用いた実験を行い,行動免疫と潜在的態度としてのエイジズムとの関連の検討を行う.実験は日本と中国(マカオ)で行う.これにより行動免疫の発生メカニズムに関して,文化的・社会的背景要因の調整効果を検討する. 2.行動免疫は,白血球がウィルスを攻撃するのと同様,脅威をもたらす(と判断された)異物や外敵を排除するよう進化した心的メカニズムである.このため,行動免疫の発動メカニズムには感染症に対する身体的防御機能と同様の生物学的背景があると仮定される.このことを検証するため,双生児を対象とした大規模調査を行う.そのうえで,行動遺伝学の手法を用いて,感染脆弱性と嫌悪感情を喚起する心理的要因や感染症への既往歴,感染症治療薬の使用歴などとの関連から,行動免疫に対する遺伝要因と環境要因の規定力を推定する. 3.食物摂取は,ウィルスの身体侵入リスクを規定する代表的行動である.そこで食物選択嗜好と行動免疫との関連の検討を行う.研究代表者は,The measure of food choice values (Lyerly & Reeve, 2015)の日本語版をすでに作成しており,これを用いて,「味や見た目」「入手のしやすさ」「安心・安全」「食べ慣れている」といった食物選択嗜好のどれが行動免疫と関連が強いかを検討する.さらに,それらの関連の強さが,健康状態によりどのように調整されるかを検討する.
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Causes of Carryover |
「現在までの進捗状況」に記載したように,今年度までの研究成果から,新たに「行動免疫と公共場面での感情や行動に関する研究」を研究する必要が生じた.このための研究費を最終年度の研究費用として取り置くこととした. 同様に,「今後の研究の推進方策」で記載した「双生児を対象とした大規模調査」は,多くの研究費用を要するため,このための研究費を最終年度の研究費用として取り置くこととした.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
「行動免疫と公共場面での感情や行動に関する研究」については,研究仮説を立てるための資料収集,実験に参加する被験者への謝礼,研究器具の購入,および得られた研究成果の研究発表のための旅費等に使用する. 「双生児を対象とした大規模調査」については,業者への委託によるオンライン調査を予定しており,これにかかる費用に充てる.また,得られた研究成果の研究発表のための旅費等に使用する.
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Research Products
(7 results)
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[Presentation] Ageism in Asia: Examining attitudes towards older adults in Japan, Malaysia, and the Philippines.2017
Author(s)
Fukukawa, Y., Onoguchi, W., Hiraishi, K., Oda, R., Aun, T. S., Nainee, S, & Salanga, M. G.
Organizer
The 12th Biennial Conference of Asian Association of Social Psychology
Place of Presentation
Auckland, New Zealand
Year and Date
2017-08-26 – 2017-08-28
Int'l Joint Research
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