2017 Fiscal Year Research-status Report
Research on adaptive functions of emotions associated with Behavioral Immune System
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15K04042
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
福川 康之 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (90393165)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小田 亮 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50303920)
平石 界 慶應義塾大学, 文学部(三田), 准教授 (50343108)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 行動免疫 / 感染脅威 / 進化 / 適応 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.日本・マレーシア・フィリピンにおいて,大学生(計1,142名)を対象とした質問紙調査を行った.得られたデータを分析したところ,以下の結果が得られた.すなわち,1)マレーシアやフィリピンの学生は,日本の学生と比べて「感染嫌悪(他人の使った電話は使用したくない,など)」の傾向が高い,2)いずれの国においても,女性は男性よりも感染嫌悪の傾向が強い,3)「易感染性(風邪をひきやすい,など)」傾向には地域差や性差はない,4)「感染嫌悪」は「死への恐怖」と正の相関があるが「健康状態」とは無相関である,5)「易感染性」は「健康状態」との正の関連があるが「死への恐怖」とは無相関である」,6)4および5は,国の違いにかかわらず認められる傾向である.これらの結果は,1)行動免疫のうち,特に「感染嫌悪」が,個人の属性(性別)や生活環境に適応した進化的な心のシステムであること,2)「易感染性」は現在の生活環境への反応が鋭敏な指標であること,を示唆するものである.本研究で示された知見はこれまで我が国では報告されてこなかったものである.また,国際的な比較研究という意味でも本研究の結果は貴重なものである. 2.生活史戦略の個人差に感染脆弱意識が及ぼす影響を調べるために,1,200名の日本人成人を対象としたオンライン調査を行った.得られたデータを分析したところ,感染脆弱意識が生活史戦略に及ぼす影響は,幼少期の社会経済環境よりも弱いことが明らかとなった.これは,米国での先行研究とは異なる結果であるが,医療水準が非常に高く,死亡率が比較的低い,といった現代日本の特殊な状況によると考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「行動免疫」に関する本研究の目的は,ヒトの感情を,感染脅威から身を守ったり,繁殖成功度を向上させたりするために進化した心の機能の発現と仮定し,その適応性を検証することである.「研究実績の概要」に記載した成果は,いずれも感染脅威が個人の属性や生活環境と関連しながら個人の適応度に影響を及ぼす可能性を示唆するものである.したがって,現在まで本研究課題のテーマと合致した一定の知見が得られているといえる.ただし,研究分担者のうちの一人が,オンライン調査で得られた感染脆弱意識に関する双生児データ(722組1444名)を用いた遺伝環境分析を進めるなかで,不適切回答者の存在が明らかになり,これへの対応のためにデータ分析および論文執筆に遅れが生じている.このため,現在までの本研究課題の進捗状況は「やや遅れている」と判断した. しかしながら,我々研究班は,原発や放射性物質など,放射能関連のリスク認知が,航空機事故など,他のリスク認知よりも感情的評価を反映しやすい,との先行研究の知見を,縦断研究データの階層的因子分析の手法を用いて再分析し,妥当性を検証している.放射能のリスク認知は,ウィルスやバクテリアなど「目に見えない」病原体に対する感染脅威認知を反映していると仮定される.したがって,こうした成果も,行動免疫が現代的な形で個人の心理と関連していることを示唆するものであり,今後も継続して検討する価値のある知見といえるだろう.
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの進捗状況」に示した通り,2017年は本来の研究最終年度であったが,分担研究者の一人が研究に遅れが生じたことから,1年間の研究期間延長を申請し,認められた.そこで今後は行動免疫特性の遺伝的基盤に関する研究を進める予定である. 具体的には,双生児722組から得られた感染脆弱意識に関するデータを用いて,行動遺伝モデルによる解析を行う.これにより,各変数が,遺伝負因による影響を受けやすいものであるか,あるいは,環境要因による影響を受けやすいものであるかを推定する.さらに,環境要因の影響については,双生児が共有する環境(家庭環境など)によるものか,あるいは共有しない環境(友人関係など)によるかを明らかにする.例えば,「研究実績の概要」で示したとおり,感染脆弱意識を構成する2要因(感染嫌悪および易感染性)のうち,感染嫌悪は進化的適応,易感染性は現在の健康状態との関連がそれぞれ強いとの知見が得られたことから,感染嫌悪特性は遺伝負因,易感染性は環境要因の影響を受けやすいと推測される.双生児データを用いた研究は,この仮説を検証するのに最適と思われる. なお,この双生児調査では,感染脆弱意識以外にも,1)感染症の既往歴,2)感染症の治療薬の使用歴,3)嫌悪感特性,4)食物選択動機,など,行動免疫と関連が深いと思われる要因に関するデータも収集している.行動免疫特性を背景として,これらの変数に関する個人差が生じるメカニズムを明らかにすることは,ヒトの健康向上に資する貴重な研究となるだろう.
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Causes of Carryover |
研究分担者のうちの一人が,感染脆弱意識の双生児データ(722組1444名)を収集し,遺伝環境分析を進めている.2017年度の研究を進めている途中で,不適切回答者の存在が明らかになり,データ分析および論文執筆に遅れが生じた,このため,研究期間の2018年度への延期を申請し,認められている.分析結果はFrontiers in Psychology誌の特集号への寄稿予定で,編集者からの了承も得ている.
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Research Products
(6 results)