2016 Fiscal Year Research-status Report
現代ドイツ教育哲学における人間形成論的ライフヒストリー研究の動向と課題
Project/Area Number |
15K04222
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Research Institution | Aichi University of Education |
Principal Investigator |
野平 慎二 愛知教育大学, 教育学部, 教授 (50243530)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 人間形成論 / ライフヒストリー研究 / ビオグラフィ研究 / 質的人間形成研究 / ドイツ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、現代のドイツ教育哲学における人間形成論的ライフヒストリー研究の動向と課題を、1.人間形成の概念規定、2.経験と規範(ないしは事実と当為)との関連の根拠づけ、という2点を中心に解明することを目的としている。この目的のもと、平成28年度は、昨年度の研究成果も踏まえ、1.人間形成の概念規定の解明に重点を置いて作業を進めた。特に、人間形成論的ライフヒストリー研究の範例とも呼べるH.-Chr.コラーの「変容としての人間形成過程の理論」を主たる検討対象とした。関連する文献の収集と検討のほか、人間形成論的ライフヒストリー研究を代表するドイツの教育学者(H.-Chr.コラー、H.-R.ミュラー、A.テアフォーレン、L.ヴィガー)を訪問し、情報収集と意見交換を行った。 「変容としての人間形成過程の理論」では、W.v.フンボルトの古典的人間形成論を踏まえ、危機的経験を契機とする自己関係および世界関係の「変容(Transformation)」として人間形成概念が規定されていること、またこの概念規定は、人間形成概念と経験的現実との媒介を可能にすると考えられていること、を確認した。他方、この人間形成概念をめぐっては、世界関係の側面の解明が不十分であることや、規範性との関わりが不明確であること、という課題が確認できた。 また、ライフヒストリー・インタビューは、規範的な人間形成論と経験的な人間形成研究が架橋される場として注目される一方、理論と経験との関係(経験的なインタビュー・データは理論を裏づけるだけか、それともそれをもとに理論を生成できるのか)や物語られた変容の範囲や規範性(何をどこまで「変容」と捉えるべきなのか、いわゆる「悪い」方向への変容も人間形成と呼びうるのか)等をめぐってなお議論が重ねられていることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、現代のドイツ教育哲学における人間形成論的ライフヒストリー研究について、1.人間形成の概念規定、2.経験と規範(ないしは事実と当為)との関連の根拠づけ、という2点を中心に解明することを目的としている。1年目は人間形成の概念規定と経験的な方法論の検討を、2年目は人間形成の概念規定の検討ならびに理論と経験との関連の検討を、3年目は経験と規範(ないしは事実と当為)との関連の根拠づけの検討を、それぞれ重点的な課題としている。 上記「研究実績の概要」にも記したとおり、2年目となる平成28年度は、人間形成論的ライフヒストリー研究の範例とも呼べるH.-Chr.コラーの「変容としての人間形成過程の理論」に重点を置いて検討を行い、その特徴と課題について考察した。また、理論と経験との関連に関しては、人間形成論的ライフヒストリー研究では、経験的データに準拠することで理論の思弁性を批判的に乗り越える、という関係において理解されていることを確認した。これらの作業はほぼ当初に予定していた通りに終えることができている。 なお、1年目の作業において、非弁証法的な人間形成概念を構想することが可能かどうか、またそれをライフヒストリー(ないしはビオグラフィー)・インタビューのなかで再構成することが可能かどうか、という課題が浮かび上がっている。2年目の作業においてこの課題を十分に追究することはできていないが、非弁証法的な人間形成概念の構想は人間形成概念の規範性の問題にも深く関わるものであり、3年目の研究課題と重ね合わせて研究期間内に解明できる見込みである。 以上より、2年目までの研究はおおむね当初の計画どおりに進んでいると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、まず、人間形成論的ライフヒストリー研究における経験的な事実と規範性との関連に重点を置いて検討を進める。経験と規範との関連は、①人間形成概念のレベル(いわゆる「悪い」方向への変容も人間形成と呼びうるのか)、ならびに②経験的データの分析のレベル(質的な方法論のもとで規範的な人間形成概念と経験的なインタビュー・データとの媒介はいかに可能なのか)という2つのレベルで主題化されうる。それぞれのレベルにおける理論的な検討を行うと同時に、実際のインタビュー・データの分析を通して実践的、経験的にも解明していく予定である。この課題に関しては、コラーの「変容としての人間形成過程の理論」を踏まえながら、とりわけそこでの人間形成概念の規範性に重点を置いて研究を重ねているTh.フックスの業績を中心に検討していく。 また、2年目までの作業で浮かび上がった、非弁証法的な人間形成概念を構想することが可能かどうか、またそれを実際のインタビュー・データを通して再構成することが可能かどうか、という課題についても、上記の作業と併せて考察していく。 これらの課題の追究を通して、最終的に、人間形成論的に方向づけられたライフヒストリー研究の意義、可能性、問題点と課題を解明し、研究をまとめる。研究をまとめる段階では、ドイツ教育哲学における人間形成論的に方向づけられたライフヒストリー研究の代表的な研究者を再度訪問し、意見交換と結論の調整を行う。訪問先としては、H.-Chr.コラー(ハンブルク大学)、H.-R.ミュラー(オスナブリュック大学)、Th.フックス(ギーセン大学)を予定している。研究の成果は、教育哲学会、教育思想史学会などの学会大会において口頭で発表するとともに、学会誌や研究紀要に論文として発表する。
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Causes of Carryover |
旅費の支出は当初の見込みよりも多くなったが、物品費とその他の費目において当初の見込みよりも実際に要した金額が少なかったため、総計として次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度に生じた次年度使用額は平成29年度に繰り越し、物品費または旅費に加算して使用する。平成29年度の使用計画は、物品費として研究遂行に必要な図書等の購入、旅費として外国(ドイツ)出張(1回)、国内での資料収集(5回程度)や学会大会への参加(2回程度)、その他として研究のまとめに必要な記録媒体等の消耗品の購入などを予定している。
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