2015 Fiscal Year Research-status Report
「職員室文化」の継承による学校づくり推進のための力量形成に関する研究
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15K04299
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
林 孝 広島大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (30144786)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 職員室文化 / 教師の力量形成 / 地域とともにある学校づくり / 特色ある開かれた学校づくり |
Outline of Annual Research Achievements |
地域に根ざした特色ある教育活動を展開する学校において継承されている「職員室文化」の現状を分析考察し、勤務校で教職員の力量を向上させるために行われている取組とその効果の分析を通じて、教職員の力量形成に資する「職員室文化」の特徴を学校の条件性に照らして明らかにすることを研究の目的としている。 そのため、本年度は、第一に、勤務校で教職員の力量を向上させる効果的な取組に関する意識について、小中学校の教諭を対象とする意識調査結果を分析考察し、学習指導に関わる内容領域、生徒指導に関わる内容領域、学級経営に関わる内容領域、学校の伝統づくりに関わる内容領域、保護者・地域との連携に関わる内容領域、教職員集団づくりに関わる内容領域から明らかにした。特に、教職員の力量形成の視点から、勤務校での効果的な取組として、研究授業や校内研修での公開授業の実施やその後の授業検討など教員研修、学校目標・子供像の共有や各自の学級経営の参観といった学校での組織的な取組、保護者や地域住民と連携・協働した教育活動の展開などをあげられた。また、学校づくりの視点からは、学校の一体感を生み出すような研究授業や校内研修、学校での組織的な取組は、教職員の力量形成と同様、学校づくりにも効果的な取組であると指摘できるとともに、学校の伝統づくりに地域の伝統や文化の取り入れやその継続的な研修、学校組織の体制づくりの強化、学校の教育力の地域社会への発信なども効果的な取組と指摘できた。 第二に、学校の「職員室文化」の継承による「特色ある開かれた学校づくり」に資する教職員の力量形成のあり方についての検討の方向性を明確にするため、教職経験20年となる小学校教諭一名の協力を得て、これまで勤務した6校の小学校の「職員室文化」と自己の力量形成との関連についてインタビュー調査を実施することができ、現在、その調査結果を分析考察している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究計画の段階では、第一に、「職員室文化」の継承について、地域に根ざした特色ある教育活動を展開する「職員室文化」の現状を学校の条件性に照らして明らかにするために、当初は、昭和50年代以降の我が国の学校教育施策や教職員の力量形成に関する方策の変遷を踏まえることとして検討した結果、「職員室文化」との関連について明確な知見を得ることができなかった。そこで、「職員室文化」の特徴を学校の条件性に照らして明らかにすることから教職員の力量形成との関連を検討することによって、「職員室文化」の継承の現状と課題との関連について検討することができた。 また、第二に、そのことを通じて「特色ある開かれた学校づくり」の取組との関連から職員室文化形成のメカニズムを明らかにすることに努めたが、研究計画において想定した調査協力校の複数の協力者の協力を得ることが難しく、善後策を検討した結果、教職員の個が感じ取り受け止めている「職員室文化」の掘り起こしを念頭に置いて、「職員室文化」の継承による「地域とともにある学校」としての「特色ある開かれた学校づくり」に不可欠となる力量についての示唆を明らかにすることを目指した。実際には、教職経験20年となる小学校教諭一名の協力を得て、これまで勤務した6校の小学校の「職員室文化」と自己の力量形成との関連についてインタビュー調査を実施でき、調査結果を分析考察している。有効な質的なデータを収集できたが、そのデータの量はまだ多くは集まっておらず、その点で、「(3)やや遅れている。」と判断しているが、データの量的補充の方途を見出すことができており、平成28年度においてさらに充実させる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度においては、地域に根ざした特色ある教育活動を展開する「職員室文化」の現状と「特色ある開かれた学校づくり」の取組との関連について、さらに多くのデータを収集するため、グループでの調査も含めインタビュー調査を実施する。 その分析考察にあたっては、その学校に同時代を共有した教職員全てにおいて効果的であるのか、また、教職員全てにおいて自覚化されるものであるのか、さらに、時代を超えて共有され続けていくのかなどについての検討を視点とする。それらの分析考察に基づいて、学校のもつ条件性に根ざす「特色ある開かれた学校づくり」の事例から「職員室文化」の継承による学校づくりの力量を抽出することに努める。 ここでは、得られた質的データは、質的データ分析手法の一つで比較的小規模の質的データにも適用できるSCAT法(大谷、2008)を用いて分析し、(1)「職員室文化」に見られる学校の伝統(縦軸)とともに、(2)「特色ある開かれた教育」に対する地域の願い(横軸)の2点から、その接点を検討する。それらのことを通じて、「地域とともにある学校」として「特色ある開かれた学校づくり」につながる力量の構成要素とその構造化を考察する。以上の結果を総合考察して、力量形成プログラムに関する示唆を明らかにする予定である。なお、このSCAT法では分析過程が明示化されており、質的データ分析の客観性を高めることに有効であるとされている。
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Causes of Carryover |
「物品費」で予算執行額が予定を大きく上回り、「旅費」「謝金等」「その他」で予定額の残が大きくなった。「物品費」で、特にソフトウェアに係る消耗品費に充てて分析考察の充実のために使用した。 一方、予定執行の残額が多い事項では、「旅費」では研究者が出張して資料収集を予定していたが、授業等の時間確保に困難を生じたため、教職大学院設置に向けての出張や研修依頼に合わせて実施したため費用が軽減された。また、調査協力校教員を招聘しての資料収集を実施したが本年度では1名にとどまり近県の教員であったため支出が少なかった。「謝金等」について収集した資料の整理を次年度の研究遂行を考慮して年度末に集中させたため、残額が生じたものである。「その他」について、通信費と印刷費を予算計上していたが、それらはともに他の業務に合わせての資料等の印刷・送付が可能で支出を必要としなかったためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
翌年度分として請求した助成金について適切な執行を進めるとともに、次年度使用額については、「旅費」として多くを執行する予定である。翌年度における「旅費」は、研究成果発表旅費以外に、資料収集旅費として、研究者の出張によるほか、複数の調査研究校の教員を招聘する形式で同時にインタビュー調査をするために重点的に使用する予定である。
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