2015 Fiscal Year Research-status Report
有機色素ナノファイバーによる新規ナノフォトニクス技術の開発
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15K04705
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Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
高澤 健 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 先端フォトニクス材料ユニット, 主幹研究員 (10354317)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ナノフォトニクス / 励起子ポラリトン / 有機色素 / ナノファイバー / 光物性 / 有機結晶 / 光集積回路 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々は近年、有機色素チアシアニンを自己組織化させて合成したナノファイバーが光励起で生じた励起子ポラリトン(励起子と光の連成波)を室温で安定に伝搬する現象を発見した。本研究の目的は、この発見を基にして、既存技術を超えるナノフォトニクス技術を実現することである。具体的には、ポラリトンの分散曲線を冷却で変調することにより、伝搬光波長の1/10以下の幅(約50nm)の極細ナノファイバーを用いてミリメートルに亘るポラリトン伝搬を可能にする。また、ポラリトンをナノの曲率半径で曲げたファイバー中を伝搬させ、ナノスケールでの光操作を実現する。 27年度は初めに、どれほど細いナノファイバーでポラリトン伝搬が生じるかを明らかにすることを試みた。ナノファイバーをガラス基板上に分散させた試料を顕微鏡に取り付けた液体窒素フロー型冷却ステージに試料を設置し、対物レンズを通してレーザー光(波長405nm)をファイバーの一点に照射して蛍光画像を取得した。ポラリトン伝搬が生じると、ファイバーの両端に強い発光が観測される。様々な幅のファイバーに対して計測を行い、ポラリトン伝搬が生じる極限のファイバー幅を探索した。その結果、液体窒素温度(83 K)では、幅100 nmを切るナノファイバーでも高効率なポラリトン伝搬が生じることを明らかにした。さらに、冷却によるポラリトン伝搬特性変化のメカニズムを明らかにするために、ファイバーの軸方向の群屈折率nおよび消衰係数kの実測を行った。その結果、低温ではnが非常に大きく、kがほぼ0となる波長領域が生じるため、幅100 nmを切る極細ファイバーでのポラリトン伝搬が可能になることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
27年度の当初計画では、1)ポラリトン伝搬に対する冷却効果の解明、および2)冷却効果のメカニズム解明、の2点を目標とした。1)については、低温におけるポラリトン伝搬を精密に測定し、83 Kでは幅100 nm以下のナノファイバーでもポラリトン伝搬が生じることを明らかにした。2)については、低温におけるナノファイバーの群屈折率nと消衰係数kを実測することで、冷却効果のメカニズムを明らかにすることができた。従って、当初の目標を達成することができた。 さらに、当初予期していなかった、低温における有機ナノファイバーの新奇な動的挙動を見出した。この現象は、新しい分子素子の実現につながる可能性があるだけでなく、基礎物理学的にも重要であると考えらえれる。これにより、本研究は当初の計画以上に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
27年度の研究は順調に進んだため、28年度も当初計画通りに進めていく。具体的にはナノファイバーを用いた、ナノサイズ光回路素子の作製を行う。ガラス基板上の幅数十nmのナノファイバーをマイクロマニピュレータにより直接操作して、ナノスケールの光回路素子を作製する技術を確立する。これにより、サブミクロンからナノサイズのマッハ・ツェンダー干渉計、リング共振器、チャンネルドロップフィルターなどの光回路素子を作製する。作製した素子を液体窒素温度まで冷却し、顕微分光法により機能を評価する。 また、27年度の研究で、当初計画には無かった低温における有機ナノファイバーの新奇な動的挙動を見出した。この現象は、分子素子応用および基礎物理の観点から重要である可能性がある。そこで、この現象についても並行して研究を進める。
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Causes of Carryover |
27年度は試料作成が予想以上に順調に進んだため、試薬、有機溶媒等に使用予定であった予算を節約することができた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
28年度はこれを使用し、高性能な光学フィルターを購入して、これまで以上に精密な顕微分光測定が行えるようにする。
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