2018 Fiscal Year Research-status Report
ウィッテン摂動を用いたディラック型作用素の指数理論とその応用
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15K04857
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
吉田 尚彦 明治大学, 理工学部, 専任講師 (70451903)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 幾何学的量子化 / Lagrangeファイバー束 / Spin-c 量子化 / 実量子化 / 断熱極限 |
Outline of Annual Research Achievements |
Kostant-Souriauによる幾何学的量子化の枠組みにおいて,与えられたシンプレクティック多様体から量子ヒルベルト空間を構成する為には,偏極と呼ばれる付加構造が必要になる.その為,得られた結果が偏極の選び方に依存するかどうかが問題になる.これについて,Baier-Florentino-Mourao-Nunes は非特異射影的トーリック多様体の場合に,運動量写像から定まる実偏極を用いた量子化が,Kahler偏極を用いた量子化の極限として現れることを示した.ところで,シンプレクティック多様体とその上の可積分でない概複素構造に対して,Kahler偏極を用いた量子化の一般化として,Spin-c量子化と呼ばれる方法がある.今年度は,前年度に引き続きSpin-c Dirac作用素の断熱極限を考えることにより,これまでの結果を一般化することに成功し,次の結果を得た.即ち,Lagrangeファイバー束の全空間上の整合的な概複素構造で,ファイバーに沿って不変なものが任意に与えられたとき,付随するSpin-c Dirac作用素をDとする.Lagrangeファイバー束の底空間がアファイン幾何学の意味で完備なとき,Bohr-Sommerfeld点で添え字付けられた前量子化束の切断の組{s_b | bはBohr-Sommerfeld点}で次を満たすものを構成できた. 1. s_b達は互いに直交する. 2. 各s_bについて,Ds_bのL2ノルムは断熱極限をとると0に収束する. 3. 断熱極限をとると,各s_bは,超関数の意味で,対応するBohr-Sommerfeldファイバーに台を持つデルタ関数に収束する. この結果はSpin-c量子化の断熱極限として実偏極を用いた幾何学的量子化が現れることを意味している.また,概複素構造が可積分である場合には,ある技術的な仮定の下で,s_b達を正則切断の空間の基底になるようにとることが出来た.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前量子化束付きLagrangeファイバー束とその上の概複素構造について,付随するSpin-c Dirac作用素の指数がBohr-Sommerfeldファイバーと呼ばれる離散的に現れるファイバーの個数と一致することが知られている.このことは,前量子化束付きLagrangeファイバー束のSpin-c量子化と実偏極を用いた量子化について,量子ヒルベルト空間の次元が等しいことを意味する. これに関して,今年度は,昨年度に得られた研究成果を予定通りに一般化することが出来た.その結果,これまでトーリック多様体,複素旗多様体(或いは一部の複素代数多様体)のKahler構造を用いた量子化に関する先行研究を,Lagrangeファイバー束とその全空間上の可積分でない概複素構造についても一般化することに成功した.特に,前量子化束付きLagrangeファイバー束のSpin-c量子化と実偏極を用いた量子化について,量子ヒルベルト空間の次元が等しいだけでなく,基底の対応も具体的に与えることが出来た.今回の結果を考察することにより,新たな応用が期待される.
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Strategy for Future Research Activity |
前量子化束付きLagrangeトーラスファイバー束とその全空間上の整合的な概複素構造に対して,前量子化束のk回テンソルに係数を持つSpin-c Dirac作用素をDとする.このとき,kを十分大きくとると,Dirac作用素Dの奇数次数部分の核が自明になることがGuillemin-Uribeによって示されている(Spin-c Dirac消滅定理).これについて,kの代わりに断熱極限をとるパラメータtを十分大きくしても,同じ結果が得られるのではないかと考えられるので,これを確かめる. 底空間が(アファイン幾何学の意味で)完備なLagrangeトーラスファイバー束の全空間上の整合的な概複素構造について,具体例を考察する限り,概複素構造が可積分であることと,対応するKahler計量が平坦であることに関係があるように思われる.そこで,概複素構造が可積分である場合に,Kahler計量が平坦である為の条件を調べる.このことは,概複素構造が可積分である場合に今回の成果で得られた前量子化束の正則切断の素性,特に,Theta関数との関係に深く関わる. これまでは特異ファイバーのないLagrange fibrationを扱ってきたが,特異ファイバーを許容するLagrange fibrationもしばしば研究の重要な局面に登場する.そこで,まずは,比較的扱いやすいと思われる非退化楕円型とfocus-focus型の特異ファイバーの場合に具体例を考察することから初めて,これまでの結果の一般化を試みる.楕円型特異ファイバーについては,Baier-Florentino-Mourao-Nunesによる先行研究を参考にして,特異ファイバーの近傍において断熱極限の下で良い振る舞いをするRiemann計量(或いは概複素構造)を調べる. また,今回の成果をDirac型作用素の摂動を用いた指数理論の観点から考察することによって,藤田玄氏,古田幹雄氏との共同研究で得られた指数理論の自然な定式化を探る.
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Causes of Carryover |
2018年8月半ばよりカナダの研究機関に滞在することになった為,当初の研究計画、特に学会,研究集会などの参加予定に変更が生じた.繰越金は,主に,これまで得られた研究成果の発表や研究打ち合わせのための渡航費として使用する予定である.
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