2017 Fiscal Year Research-status Report
非線形拡散を伴うSKTモデルに現れる定常パターンの大域分岐構造
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15K04948
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Research Institution | The University of Electro-Communications |
Principal Investigator |
久藤 衡介 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (40386602)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 反応拡散系 / 分岐 / 極限系 / 非線形拡散 / 楕円型偏微分方程式 |
Outline of Annual Research Achievements |
生物種の空間的な拡散プロセスの数理モデルとして,3つの非線形拡散項が大久保のテキスト(1980)によって例示されている.その内の2つの非線形拡散項が定常解に及ぼす効果をロトカ・ボルテラ系で数学的に抽出した. 1つ目の非線形拡散項は「交差拡散項」と呼ばれ,競争関係にある2種類の生物種が競争相手の少ない地域に拡散しようとする状況をモデル化している.既存の研究では,交差拡散項の係数を増大させると,定常解は「棲み分け」か「交差拡散機能のない種の減衰」のどちらかに収束することが示されており(Lou-Ni, 1999),前者の「棲み分け」を特徴付ける近似モデルに対しては,Lou, Niに加えて四ツ谷による研究によって解構造の解明が進められてきた.当該研究においては,後者の「交差拡散機能のない種の減衰」を特徴付ける近似モデルの解析にあたり,平成28年度までに,交差拡散機能のない種の増殖率を分岐パラメーターとしたとき,その増殖率がラプラス作用素の固有値に近づくと,定常解の爆発現象が起こることを空間1次元のケースで示していた.平成29年度においては,分岐パラメーターである増殖率が固有値に近いとき,リアプノフ・シュミット還元法を応用して,定常解の枝の曲線表示を得た.さらに,その曲線上の定常解が線形化不安定であることを証明した. 冒頭の2つ目の非線形拡散項は,捕食生物が餌である被食生物の多い地域に拡散しようとする状況を記述するが.モデル化の見地から走化性項とは異なる.上述の大久保の提唱にもかかわらず,偏微分方程式の分野ではほとんど研究がされてこなかった.平成29年度の当該研究においては,この非線形拡散項が定常解に及ぼす効果を解析した.主な研究成果として,捕食生物が被食生物を追う拡散効果を非常に大きくすると,捕食生物の被食生物の関係は対等な競争関係に定常状態に漸近することが証明された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交差拡散項を伴うロトカ・ボルテラ競争系に対する研究では,平成29年度までに,研究実績の概要にて既述の「減衰を特徴付ける近似系」に関して,定常解の分岐枝の様子を爆発点付近で詳細に得る計画であった.平成28年度までの当該研究では,分岐パラメーターがラプラス作用素の固有値に近づくにつれ,定常解の片方の成分が爆発する現象を捉えていた.その成果を受けて平成29年度においては,爆発点付近の解の不安定性の証明を試みたが難航した.年度末近い状況にあっても,進展が得られなかったため,状況を打開すべく,3月末にSKTモデルの定常問題の研究では定評のある Yaping Wu 教授(北京師範大学)を訪問し,爆発点近傍解析に関する研究討論を行った.その議論を通じて,空間1次元のケースでは,爆発点を正規化された関数に置換する変数変換を発見し,爆発点の近くにある定常解の集合が形成する曲線を構成することが出来た.さらに,その曲線表示の具体性から,爆発点近くにある定常解はすべて線形化不安定であることが証明できた.空間多次元での解析に課題は残すので,爆発点付近の解析については,当初計画よりも若干の遅れで平成29年度末を迎えている. 各時刻での捕食生物の移動先が,餌である被食生物の多い地域ほど高確率であるとき,ある種の非線形拡散項によって捕食生物の空間的遷移がモデル化される.研究協力者である大枝和浩助教(早大)との議論を通じて,上述の非線形拡散項を伴う定常問題の解析を行った.とりわけ,非線形拡散項にかかる係数を増大させると,食う食われるの関係にあった生物種の定常バランスが競争関係の定常バランスに移行するという研究計画の作成時には予想しなかった成果を得た. 総合的に見ると,当該研究課題の進捗状況は概ね順調であると言える.
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Strategy for Future Research Activity |
交差拡散を伴うロトカ・ボルテラ競争系に対する研究においては,定常解に対する分岐解析や安定性解析を継続する.とりわけ,平成29年度末の首都師範大学への短期滞在において得られた Yaping Wu教授からの助言を参考にして,減衰を特徴付ける近似系の定常解の分岐構造と不安定性を証明する.また,そこで得られた近似系の分岐枝を摂動することによって,SKTモデルの不安定な定常解の枝を構成する.上記の解析の進展が良好であれば,国内外の学会や研究集会での発表機会を積極的に模索する.一方,解析が難航する事態に陥れば,必要に応じて再び北京の首都師範大学を訪問し,Wu教授に意見を求める. 非線形拡散項を伴う被食者・捕食者系の解析においては,非線形拡散項を無限大にしたときに得られる極限系について,定常解の分岐図を完成する.とくに,捕食生物の減衰を特徴付ける極限系については,分岐枝の爆発点近傍の様子をスケーリング法によって調べる.さらに,極限系からの摂動によって,元々の被食者・捕食者系の定常解の大域分岐構造を明らかにする.今年度6月末時点での成果は,7月初旬に台北で開催されるAIMSの国際研究集会において口頭発表する. 平成30年度においては,当該研究課題の最終年度であることに鑑み,研究成果の誌上発表ならびに口頭発表を積極的に行う.また,研究期間内に得られたSKTモデルの定常解の分岐構造を数値的に再現するようなシミュレーションの実施を模索する.さらに,当該研究課題を通じて開発した解析手法が,SKTモデルのみならず周辺分野の偏微分方程式の解析に応用可能かどうか考察する.
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Causes of Carryover |
次年度使用額14,735円は購入予定の専門図書の入荷時期が次年度に延期されたことによる.当該年度の請求分とともに適正な使用にあたる.具体的には,次年度使用額は入荷が遅れていた図書の購入に充てる.
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Research Products
(11 results)