2019 Fiscal Year Research-status Report
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15K05092
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
石橋 明浩 近畿大学, 理工学部, 教授 (10469877)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ブラックホール / 一般相対論 / 重力理論 / 高次元時空 / 宇宙論 / 超弦理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、まず昨年度より進めてきた高次元理論のコンパクト化により導かれる様々な有質量ボソン場のブラックホール時空上でのダイナミクスの研究を推し進めた。具体的には、昨年度に行った静的臨界ブラックホール時空上のスケール変換を用いた、有質量ベクトル場のマスター方程式の研究を、今年度は有質量テンソル場の場合へと拡張し、一般次元における静的臨界ブラックホール時空での、対応するマスター方程式の導出に成功した。有質量テンソル場は、ベクトル場の場合に比べてさらに力学自由度が増大するが、その全てを余さず脱結合した常微分方程式系に帰着させることができた。これにより、4次元を含む一般次元の静的臨界ブラックホールの有質量テンソル場に対する安定性解析の基礎整備を進めることができた。 また、重力崩壊による特異点生成など、重力系の安定性を議論する上で鍵となる概念である(平均化された)光的エネルギー条件(ANEC)について、AdS/CFT対応を用いた研究を行い、大きく2つの成果を得た。先ず、AdSバルク時空とその境界面上での因果律に着目し、両者の因果律が整合的でなくなるような場合は、境界上での量子場に対する平均化された光的エネルギー条件(ANEC)が敗れるということを、具体例を構成して示した。次に漸近AdS時空の境界上における新しいエネルギー条件として、「共形不変な光的エネルギー条件(CANEC)」の概念を新たに提案した。さらに、一般次元におけるブラックホールの事象の地平面のベッケンシュタイン・ホーキング・エントロピー、ブラックホール外部伝達領域における量子場のフォン・ノイマン・エントロピー、および光的無限遠における輻射のエネルギー流の間に成り立つ関係式を導出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、まず静的臨界ブラックホール時空上での有質量テンソル場のマスター方程式の新しい定式化に成功した。これは、昨年度より始めた有質量ボソン場のブラックホール時空上のダイナミクスの研究で、有質量ベクトル場の場合に行った研究成果を発展させたものである。ただし、今回も扱う4次元および高次元ブラックホールは静的臨界ブラックホール時空にスケール変換を施した特殊なものに限定されたままである。今後は、特に安定性・不安定性の観点からより興味深い回転ブラックホール上での有質量テンソル場の摂動論の定式化が望まれる。また、臨界静的ブラックホール時空の場合にも、今回導出した有質量テンソル場摂動のマスター方程式を用いた安定性解析は未だ行っておらず、これは今後の興味深い課題となっている。 重力系の安定性を議論する上で鍵となる光的エネルギー条件について、良く知られた「平均化された光的エネルギー条件(ANEC)」が、ある種の強結合場の量子論において破れることを、AdS/CFT対応を用いて示した。そして、共形場を扱う文脈でより興味深い「共形不変な光的エネルギー条件(CANEC)」の概念を、いくつかの特別な条件のもとで新たに提案した。さらに、AdSバルク時空とその境界それぞれの時空の因果律の整合性が破れる場合、すなわち、バルク時空にいわゆる「ショートカット」が存在する場合には、AdSバルク内に裸の特異点が発生し、宇宙検閲官仮説が破れなければならないことを、ある種の妥当な条件のもとで証明することができた。このように、AdSバルクとその境界上の因果律の整合性は、AdS/CFT対応を適切に定式化するために自然かつ必要な条件であることを裏付ける成果が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、本計画の総括として、また新しい挑戦へ繋がるように高次元から4次元有効理論に焦点を移し、有質量重力理論を含む有質量ボソン場の、ブラックホール時空におけるダイナミクスの研究へと向かう予定である。まず、既に有質量ベクトルおよびテンソル場に対して、静的臨界ブラックホールのホライズン近傍のスケール変換を用いたマスター方程式の導出に成功した。しかし、そのマスター方程式を用いて実際にこれら静的臨界ブラックホールの安定性解析は行っていない。これらの種類のブラックホールは宇宙物理の文脈では現実的とは考えられていないが、ホログラフィック超伝導などAdS/CFT対応の応用において良く用いられる時空モデルであることからも、その安定性解析は興味深いと考えられる。次に、静的臨界ブラックホールを臨界回転ブラックホールの場合に拡張し、さらに非臨界回転ブラックホール上での有質量ベクトル場およびテンソル場摂動の定式化へ一般化することが、今後の最も重要な課題といえる。それにより、本計画の中心概念であった高次元時空の痕跡を、我々の観測的宇宙における宇宙物理現象(特にブラックホール近傍で起こり得る宇宙現象)を通して探る方法を考案したい。また、こうした研究によりブラックホール時空のダイナミクスを、暗黒物質などダークセクター探査にも結び付けたい。
また、AdS/CFT対応を用いた光的エネルギー条件の研究もさらに発展させたい。特に共形不変な光的エネルギー条件は、今のところアノマリー項を含まないようにするため、境界時空の次元が奇数の場合に制限して考察した。アノマリー項を含む偶数次元の境界時空上における共形不変な光的エネルギー条件が定式化できるかどうかを明らかにしたい。
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Causes of Carryover |
当初、本年度末に共同研究者と本研究の総括のための打ち合わせや、国内外での研究会で研究成果発表を行う予定であった。しかし、新型コロナウイルス感染症の問題のため、研究打ち合わせのための出張を中止することになり、また研究成果発表予定の学会や研究会が中止となったため、海外および国内旅費の使用ができず、計画の変更が必要となった。本年度も、この新型コロナウイルス感染症問題のため、研究会等が開催される見込みは少なく、予算を国内外旅費に使うことは困難と予想される。しかし、オンラインによる研究打ち合わせや、今後開催が予想されるオンライン研究会・シンポジウム等での効果的な研究成果発表のためのパソコン周辺機器・ソフトウェアの拡充に予算を充てたい。
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Research Products
(9 results)