2020 Fiscal Year Research-status Report
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15K05092
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
石橋 明浩 近畿大学, 理工学部, 教授 (10469877)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ブラックホール / 一般相対論 / 重力理論 / 高次元時空 / 宇宙論 / 超弦理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
一般に安定な物理系のエネルギーには下限がある。ブラックホール時空など重力孤立系の場合は、アインシュタイン方程式に現れるストレスエネルギーテンソルを用いた様々なエネルギーに対する非負性の条件を課すことで、その安定性が議論できる。そのようなエネルギー条件の中で特に重要なものは、光的エネルギー条件(NEC)と呼ばれる、光的世界線に沿った観測者の見るエネルギーの正値性条件である。NECのもとでの重力の振舞いを用いて、特異点定理やブラックホールの面積則、ブラックホールのトポロジー定理など様々な基礎定理の証明がなされている。そのため光的エネルギー条件がどのような物理系に対して成り立つかが調べられてきたが、量子場を含む場合は一般に局所的には破れることが分かっており、そのため光的エネルギー条件を興味ある光的測地線に沿って積分することにより得られる「平均化された光的エネルギー条件(ANEC)」が提案された。このANECが一般にどのような量子場の効果のもとで満たされるのか、または破れるのかを理解することは、重力系の安定性の観点からも重要である。そこで今年度は、ANECが曲がった時空上の強結合共形場の量子論のもとで成り立つかどうかを、重力理論と強結合量子場の理論との対応であるAdS/CFT対応を用いて調べた。同様の動機に基づいて、昨年度は奇数次元の場合に共形不変なANEC(CANEC)の概念を提案したが、本年度はその成果を偶数次元の場合で行ったものである。だだし、偶数次元では重力異常項が現れるため表式が非常に複雑になり、明白に共形不変なCANECの形式を導くことはできなかった。しかし、重み付ANECの下限を与える不等式の導出には成功し、さらに境界時空上の光の膨張率や準局所的質量などの幾何学量を用いて表す表式を求めることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年までで既に、本研究計画の高次元ブラックホールの安定性について多くの成果を得ている。本年度は、時空の安定性を高次元ブラックホールに限定せず、より広い観点から議論することを目的としてエネルギー条件、特にANECの研究を行った。平坦な時空上でのANECは一般の量子場に対して成立することが最近になって証明されている。しかし、曲がった時空の上でのANECの成否は未だよく分かっていない。そこで本研究では、空間的に閉じた宇宙を模した曲がった時空上でのANECを、そのような時空を境界としてもつ漸近AdS時空において、AdS/CFT対応(ゲージ重力対応)を用いて考察した。ここでの指導原理は、良設定なAdS/CFT対応のためにバルクとその境界上の因果律に整合性があることを要請するものである。つまり、境界上の非時間的光的測地線がバルクおよび境界上の計量に関して最も速い因果曲線を表すことを指導原理とした。AdS/CFT対応の因果律に関するこの指導原理のもと、以前に奇数次元において同様の設定でANECを共形不変な形式に一般化したが、本研究では偶数次元として2次元と4次元の場合を扱った。2次元の場合にはANECを示すことに成功し、4次元の場合(この場合は偶次元のため重力の共形アノマリーが発生する)には、重み付AENCに対する下限を与える不等式を導出することに成功した。また、その不等式を、曲がった境界時空を特徴付ける、準局所質量など幾何学量を用いて表現することに成功した。さらに、ワームホール的なくびれた時空構造が存在する閉じた宇宙モデルを構成して、ANECが破れるような曲がった時空の具体例を示した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究で導出した重み付ANEC不等式は、昨年度行った奇数次元のCANECの偶数次元の場合の重力の共形アノマリーを取り入れたものに対応する。しかし、偶数次元の場合の不等式がCANECの様に、共形不変性を持つかどうかについて確認ができていない。また、今年度の研究では閉じた宇宙モデルの内でも球対称性を持つものに限っており、そのためANECを考える際に用いた光的測地線束は歪みを持たないものを考えている。球対称性を持たない、より一般の曲がった時空の場合に重み付ANECの下限が得られるかどうかは不明である。以上は今後の本研究テーマでさらに追及すべき課題である。また、昨年度および今年度の研究成果により導出した、曲がった時空の量子場の効果のもとでのANECおよび重み付ANEC不等式を用いて、時空の不安定性を議論することは本研究の主要な発展テーマと考える。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の問題のため、本年度末に行う予定であった共同研究者と本研究の総括のための打ち合わせのために旅費の使用が不可となり、また国内外での研究会がオンライン開催となったため、海外および国内旅費の使用ができず、計画の変更が必要となった。本年度も、この新型コロナウイルス感染症問題のため研究会等が対面形式で開催される見込みは少なく、予算を国内外旅費に使うことは困難と予想される。オンラインによる研究打ち合わせや、今後オンラインによる研究会・シンポジウム等での効果的な研究成果発表のためのパソコン周辺機器・ソフトウェアの拡充に予算を充てたい。
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Research Products
(2 results)