2015 Fiscal Year Research-status Report
有機導体のディラック電子系における異常物性の統一的解明
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15K05166
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
小林 晃人 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (80335009)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ディラック電子系 / 有機導体 / 電子間相互作用 / フェリ磁性揺らぎ / フェルミ速度異常 |
Outline of Annual Research Achievements |
有機導体α-(BEDT-TTF)2I3のディラック電子相では層状物質である特徴を生かしたNMRによるスピン揺らぎの詳細な観測が盛んに行われている。単位胞に含まれる4つのBEDT-TTF分子(A, A', B, Cサイト)を識別可能なSite-Resolved NMRでは、各サイトにおけるナイトシフト(磁化率)と1/T1の温度依存性および圧力依存性が測定され、特に磁化率は4つのサイトにおいて定性的に異なる温度依存性を示す。各サイトの磁化率は相互作用のないディラックコーンの場合に期待される温度に比例する振る舞いから大きく外れ、80K以下の低温で強く抑制される。さらにBサイトでは60K以下の低温で負に符号反転しフェリ磁性的となることが平田ら(2015)により見いだされた。 本研究ではα-(BEDTTTF)2I3の2次元ディラック電子系を記述するハバード模型に基づき短距離クーロン相互作用の効果についての理論研究を行った。4つの分子サイトを基底とするサイト表示のRPAを用いて解析した結果、適切なUの大きさを選ぶことにより60K以下でのBサイトの磁化率の符号反転を再現できることが分かった。これによりディラック電子系における短距離クーロン相互作用の重要性が明らかになった。 また、全サイトの磁化率が抑制されるメカニズムとして、長距離クーロン相互作用の自己エネルギー補正を繰り込み群により取り扱う理論が磯部ら(2014)により提唱されているが、本研究ではセルフコンシステント1次の温度グリーン関数による有限温度の解析を行い、この近似の範囲で磁化率の抑制は比較的低温でのみ有効であることがわかった。 さらに、数K以下の低温における1/T1の反転増大や電気抵抗の増大を説明し得るメカニズムとして、低温秩序相(バレー間エキシトニックSDW)の可能性を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の目的である有機ディラック電子系における異常物性の統一的解明に向けて、平成27年度の計画を遂行した。具体的には、α-(BEDTTTF)2I3の2次元電子系を記述するハバード模型に基づき、単位胞に含まれる4個のBEDT-TTF分子における磁化率をサイト表示の乱雑位相近似(RPA)を用いて計算し、温度依存性およびオンサイトクーロン斥力Uに対する依存性を詳細に調べた。4つの分子A, A', B, CのうちAとA'は結晶学的に等価だが、他の分子は(同じBEDT-TTF分子であるにも関わらず)周囲との重なり積分の相違により等価でないサイトである。計算の結果、適切なUを選べば(U=0.14)約60K以下においてBサイトの磁化率だけが負となる事を示した。これはNMRにより観測された結果と矛盾しない。この特異な振る舞い(フェリ磁性揺らぎ)は短距離クーロン相互作用の効果であり、グラフェンなど広範な物質に展開するディラック電子系においてバルク物性に短距離クーロン相互作用の顕著な効果が見いだされた最初の例である。また、有機導体のディラック電子系においてフェリ磁性揺らぎが発現する理由を理論的に研究し、有機ディラック電子系の磁化率では大きく傾斜したディラックコーンにおける緩やかな斜面におけるバンド間遷移の寄与が支配的であること、その遷移行列要素はディラック電子の波動関数の特性により負符号であることを示した。これによりフェリ磁性揺らぎのメカニズムが解明されたため、本研究課題はおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度では、有機導体のディラック電子系においてNMRによる観測される磁化率と1/Tの温度依存性のメカニズムを電子間相互作用の観点から統一的に解明することをめざす。 相互作用のない2次元ディラック電子系であれば、磁化率は温度に比例し、1/T1は温度の3乗に比例すると考えらえる。しかし平田、Liuら(2015)により実際に観測される磁化率の温度依存性はT-linearに比べて大きく抑制されている。一方1/T1は十分高圧において温度の3乗、電荷秩序転移近傍の低圧において温度の4乗の振る舞いが観測される。磯部ら(2014)による長距離クーロン相互作用の自己エネルギー補正を繰り込み群により取り扱う理論ではディラック電子の速度がディラック点近傍においてlog発散すると主張されているが、このフェルミ速度異常では磁化率の抑制を説明できても1/T1を説明することができない。そこで本研究では長距離クーロン相互作用を摂動論的により磁化率を取り扱う。特定次数の範囲で自己エネルギーだけでなくバーテックスを取り入れることにより、磁化率の1/T1の温度依存性の相違を定性的に説明することをめざす。 さらに本研究課題の期間中に(1)面内抵抗と1/T1において観測される低温異常のメカニズムの解明、(2)ディラック電子相近傍の電荷秩序相における金属的電気伝導のメカニズムの解明をめざす。前者では面内抵抗と1/T1が10K以下の低温において温度を下げると共に増大に転じる低温異常の原因として、バレー間エキシトニックSDW相の可能性を提唱し、具体的に面内抵抗と1/T1の計算を進めている。また後者では電荷秩序におけるエッジ状態やトポロジカル・ドメインウォールの束縛状態による伝導の可能性を指摘し、具体的計算を進めている。
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Causes of Carryover |
本研究計画の遂行に必要な性能を満たす電子計算機(ラックマウントサーバー)の購入価格が当初見積もりに比べて低価格に抑えることが出来たため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当初計画より海外の国際会議発表が増える見込みのため、海外渡航費に使用する。
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[Presentation] Interaction-induced reshaping of tilted Dirac cones and ferrimagnetic fluctuations2015
Author(s)
M. Hirata, K. Ishikawa, K. Miyagawa, M. Tamura, C. Berthier, D. Basko, A. Kobayashi, G. Matsuno, K. Kanoda
Organizer
The 11th International Symposium on Crystalline Organic Metals, Superconductors and Magnets (ISCOM 2015)
Place of Presentation
Bad Gogging, Germany
Year and Date
2015-09-08
Int'l Joint Research
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