2020 Fiscal Year Research-status Report
有機導体のディラック電子系における異常物性の統一的解明
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15K05166
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
小林 晃人 名古屋大学, 理学研究科, 准教授 (80335009)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 有機導体 / ディラック電子系 / 電子相関 / 電荷秩序 / 輸送現象 / 核磁気共鳴 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は(1)有機ディラック電子系で観測される異常なゼーベック係数などの熱輸送現象の解明、(2)単一成分分子性導体におけるディラックノーダルラインを記述する強束縛模型の導出、(3)カイラルエキシトニック不安定性の磁場依存性の解明に取り組んだ。 (1)有機ディラック電子系では通常はボルツマン理論により予想されるゼーベック係数の温度依存性が観測されるが、金属絶縁体転移が起きるとその直下でゼーベック係数が鋭いピークを示したのち、符号反転する異常な振る舞いが複数の有機ディラック電子系で観測されているが、そのメカニズムは解明されていない。本研究では、電子間相互作用による電荷秩序転移を平均場理論により取り扱い、相転移の近傍でディラック電子の不純物散乱による緩和時間に強い振動数依存性が現れることを示し、これが異常なゼーベック係数を引き起こしていることを示した。 (2)単一成分分子性導体では第1原理計算や拡張ヒュッケル法によりディラックノーダルライン系が複数見いだされている。本研究ではその候補物質の一つに対し第1原理計算のRESPACKにより強束縛模型を導出し、高指向性の表面状態を有する弱いトポロジカル絶縁体であることを示した。 (3)電子相関の強いディラック電子系では、カイラルエキシトニック不安定性によりスピン揺らぎが増大することが、研究代表者とNMR実験グループとの国際共同研究により示されている。本研究ではこのカイラルエキシトニック不安定性が面内磁場により増強されること、キャリアドープに対して敏感であることなどを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では以下のようにディラック電子系におけるパラドックス的異常物性が電子相関効果に起因することを明らかにしてきた。(I)NMRにより観測される磁化率の抑制は、長距離クーロン相互作用による異方的速度繰り込みが引き起こすディラックコーンの先鋭化(砂時計型)に起因することを示した【Nat. Commun.7, 12666 (2016)】【J. Phys. Soc. Jpn. 86, 014705 (2017)】【J. Phys. Soc. Jpn. 87, 054706 (2018)】。(Ⅱ)低温における1/T1Tの反転は、バレー間エキシトニック揺らぎの発達によることを初めて示した【Sience 358, 1403-1406 (2017)】【Phys. Rev. Research 2, 033479 (2020)】【Rep. Prog. Phys. 84 036502 (2021)】。(Ⅲ)有機導体の電荷秩序相における有限質量ディラック電子相において、光学ギャップと伝導ギャップが大きく異なることを具体的に示し、光学伝導率と直流伝導率の実験結果を矛盾なく説明できることを示した【J. Phys. Soc. Jpn.85, 094710 (2016) 】【J. Phys. Soc. Jpn. 86, 074708 (2017)】【J. Phys. Soc. Jpn. 87, 054703 (2018)】。(Ⅳ)ディラック-電荷秩序相転移近傍における光学伝導率に現れる特徴的なエネルギーの階層構造を予想た【Crystals 2018, 8(3), 137】。(Ⅴ)有機ディラック電子系で観測される異常なゼーベック係数などの熱輸送現象を解明した、【Phys. Rev. B 101, 245201 (2020)】(Ⅶ)単一成分分子性導体におけるディラックノーダルラインを記述する強束縛模型の導出した。【J. Phys. Soc. Jpn. 89, 074704 (2020)】これらの成果により。本研究は当初の計画以上に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は(A)有機ディラック電子系α-(BETS)2I3の金属絶縁体クロスオーバーのメカニズムの解明、および(B)単一成分分子性導体のディラックノーダルライン系におけるフェルミアークの磁気的性質について研究を進める。 (A)有機ディラック電子系α-(BETS)2I3では電気抵抗測定により金属絶縁体クロスオーバーが観測されているが、構造や電荷密度の変化は無く、NMRからもそのメカニズムに関する手掛かりは得られていない。本研究ではα-(BETS)2I3の分子軌道の波動関数の広がりが大きいことに着目し、次近接クーロン相互作用まで取り入れた拡張ハバード模型に基づいた電子状態探索を行う。これにより金属絶縁体クロスオーバーを引き起こす隠れた秩序状態の候補を提案する。 (B)単一成分分子性導体のディラックノーダルライン系はその表面に高指向性(擬1次元的)エッジ状態を有することが先行研究により示されている。本研究ではエッジ状態のフェルミアークが非常に良いネスティングを示すことに着目し、実空間RPAなどの手法により表面磁性の可能性を探求する。
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Causes of Carryover |
本研究課題は既に令和2(2020)年度まで補助事業期間の延長承認を得ているが、新型コロナウイルス感染症の影響により、令和3年度までの再延長を行った。研究成果を国内外に発信するとともに更なる発展のための情報収集を行うため、日本物理学会および国際学会への参加登録費、オープンアクセスジャーナルを含む国際学術誌への投稿費用として使用する計画である。
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