2016 Fiscal Year Research-status Report
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15K05172
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
東谷 誠二 広島大学, 総合科学研究科, 教授 (70304368)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 超伝導薄膜 / 時間反転対称性 / アンドレーエフ表面束縛状態 / 奇周波数クーパー対 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度からの継続課題として取り組んでいた、異方的フェルミ面をもつd波超伝導薄膜の温度‐膜厚相図に関する研究の成果をまとめ、8月にプラハで開催された低温物理学の国際会議(QFS2016)で発表した。この研究によって明らかになったことは、(1) d波超伝導薄膜で実現する時間反転対称性の自発的に破れた(自発電流を伴う)超伝導状態と通常の(自発電流を伴わない)BCS超伝導状態との間の相境界は、フェルミ面の形状にほとんど影響を受けないが、(2) 常伝導状態が時間反転対称性の破れた超伝導状態へと不安定化を起こす臨界膜厚は、フェルミ面がある種の異方性をもつとき顕著に減少し、その結果、温度‐膜厚相図上の広い範囲で時間反転対称性の破れた超伝導が安定化すること、(3) 超伝導状態間の相転移温度は膜厚にほぼ逆比例するという特徴的な膜厚依存性をもつが、その起源は、ゼロエネルギーに形成されるアンドレーエフ表面束縛状態にあることである。ただし、この研究結果は、薄膜表面で電子が鏡面的に散乱されると仮定した(散漫的な表面散乱の効果を無視した)理論モデルに基づく結果である。一般に、異方的超伝導体の表面状態の様相は、境界条件に依存して敏感に変化することが知られており、本研究で着目したd波超伝導薄膜では、散漫的表面散乱が時間反転対称性の破れた超伝導の安定化を妨げる要因になると予想されるため、散漫的表面散乱の効果とフェルミ面の形状効果を同時に取り入れた理論の枠組みを本年度の後半に構築した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
異方的d波超伝導薄膜における多重相転移について、鏡面的な表面を仮定した範囲内での研究は順調に進み、本年度にその研究成果をまとめることができた。今後は、散漫的表面散乱効果の研究に注力する予定であるが、それを行うための理論の枠組みについてもすでに定式化を終えている。
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Strategy for Future Research Activity |
超伝導体の自発電流状態に対する散漫的表面散乱効果を、表面の鏡面度をパラメータにして系統的に調べる。本研究ではこれまで薄膜系を主な研究対象としてきたが、表面効果を理解するには、サイズ効果が無視できる半無限系を考えるのがよい。半無限領域に広がった超伝導体の表面付近に自発電流が流れている状態を考え、この自発電流に伴う自発磁化の空間分布や自発磁化が消失する臨界温度等の解析を行う。
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Research Products
(4 results)