2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K05172
|
Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
東谷 誠二 広島大学, 総合科学研究科, 教授 (70304368)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 銅酸化物高温超伝導体 / アンドレーエフ表面束縛状態 / 奇周波数クーパーペア / 表面散乱効果 / 自発表面電流 / 時間反転対称性 |
Outline of Annual Research Achievements |
銅酸化物高温超伝導体で実現する異方的d波超伝導状態では、表面電流が低温で自発的に誘起されることが理論的に予言されている。この局所的時間反転対称性の破れは、アンドレーエフ表面束縛状態の形成に起因する。時間反転対称性を保持するd波超伝導状態では、アンドレーエフ表面束縛状態はフェルミレベルにフラットバンドを形成することが知られているが、このようなミッドギャップ状態は自発的時間反転対称性の破れを伴う相転移を引き起こす。時間反転対称性が破れた超伝導状態では、ミッドギャップバンドがフェルミレベルからシフトし、その結果、表面付近の自由エネルギーが減少するのである。 本年度の研究では、d波超伝導体における自発表面電流状態の安定性に対する散漫的表面散乱の影響を準古典グリーン関数理論に基づき考察した。現実の物質には不可避な原子スケールの表面の乱れは電子の散漫的散乱を引き起こす。原子スケールの乱れをもつ表面で準古典グリーン関数が満たすべき境界条件を表面の鏡面度を用いてパラメタライズし、自発表面電流状態への相転移温度の鏡面度依存性を、マックスウェルの方程式を数値的に解き計算した。その結果、d波超伝導体における表面相転移温度は、鏡面度に非常に敏感であり、散漫的表面散乱によって顕著に減少することが明らかとなった。この研究成果を、8月にスウェーデンのヨーテボリで開催された低温物理の国際会議(LT28)で報告した。 同様な表面相転移が起こるp波超伝導体についても計算を行い、p波超伝導体の場合には、表面相転移温度は散漫的表面散乱の影響をほとんど受けないことを明らかにした。このような散漫的表面散乱効果におけるd波超伝導体との著しい違いは、p波超伝導体にはs波対称性を有する奇周波数クーパーペアが表面付近に存在することから理解できる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
d波超伝導体及びp波超伝導体における自発表面電流状態の安定性に対する散漫的表面散乱効果の研究を概ね当初予定していた期間内に実行することができた。d波とp波超伝導体における数値計算結果の比較から、超伝導体の表面に誘起される奇周波数クーパーペアの対称性の違いが自発表面電流状態の安定性を大きく左右することが明らかになった。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、平成29年度に行った異方的超伝導体における自発表面電流状態の安定性に関する研究成果を論文にまとめ、その後、サブドミナントなペアリング相互作用チャネルの効果を取り入れた自発表面電流状態の理論研究を展開する予定である。これと密接に関連した研究課題として、超流動ヘリウム3B相に形成される表面束縛状態に対する非p波ペアリング相互作用の効果についても考察したい。
|