2015 Fiscal Year Research-status Report
高分子-クレイコンポジットゲルのタフネス機構の解明とアクチュエーター挙動
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15K05242
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
武野 宏之 群馬大学, 大学院理工学府, 准教授 (70302453)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 高分子-クレイコンポジットゲル / タフネス機構 / 水晶振動子マイクロバランス法 / 力学物性 / アクチュエーター |
Outline of Annual Research Achievements |
アニオン性高分子であるポリアクリル酸ナトリウム、中性高分子であるポリアクリルアミドを用いて、高分子-クレイコンポジットハイドロゲルの力学物性における組成効果および分子量効果を調査した。その結果、ゲルの力学物性は分散剤濃度に敏感ではあるが、高分子濃度にはあまり敏感ではないことを示した。また、ゲルの力学物性の分散剤濃度、高分子濃度の効果はゲル構造の不均一性と相関していることを明らかにした。水晶振動子マイクロバランス装置を用いて、クレイと高分子間の相互作用を調査した。その結果、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミドどちらの高分子とも、クレイ粒子に物理的吸着することを確認した。上記の結果をまとめると、タフな力学物性を有する高分子-クレイコンポジットハイドロゲルを得るためには、3つのキーファクター、(1)クレイ粒子の分散性、(2)数百万以上の高分子量をもつ高分子の使用、(3)高分子-クレイ微粒子間の相互作用が重要であることが明らかとなった。このようなゲルのタフネス機構に関する知見は今後新規な高分子-クレイコンポジットハイドロゲルを開発する上で非常に重要な指針となる。さらに、アクチュエーターとしての応用を探るために、ポリアクリル酸ナトリウム-クレイコンポジットハイドロゲルの電場屈曲性を調査した。その結果、応答速度はやや遅いものの、8V程度の電圧印加でゲルは大きく屈曲することが分かった。また、この屈曲挙動は二段階機構(一段階目でカソード側へ屈曲した後、二段階目でアノード側へ大きく屈曲する)で進行することを示した。これらの屈曲挙動において、一段階目では電場印加によるゲル内部のプロトン移動により、二段階目においては外部溶液からのプロトン移動によりゲル表面のpHが変化することによってゲルが屈曲することを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究は概ね平成27年度の交付申請書の研究実施計画通りに進行している。具体的には、交付申請書の研究計画で述べたように、高分子-クレイコンポジットハイドロゲルに対して、一軸圧縮・一軸伸張測定を行うことにより弾性率、破断応力、破断歪み、クレイ一粒子あたりの平均吸着高分子数などのゲルの力学物性における重要パラメーターを求めた。これらの力学物性の組成依存性・分子量効果と放射光小角X線散乱を用いたハイドロゲルの構造を調査した研究成果は2報の査読付き学術論文にまとめた(両論文とも掲載済み)。高分子とクレイ粒子間相互作用の評価を行うために、計画通り水晶振動子マイクロバランス(QCM)装置を購入した。QCMを用いてクレイ粒子上にポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミドが吸着することを確認し、高分子-クレイ間の相互作用の重要性を明らかにした。また、本年度予定していた高分子-クレイコンポジットハイドロゲルのミクロ構造調査のために、大強度陽子加速器施設(J-PARC)において、ゲルの小角中性子散乱コントラスト変調実験を行った。本実験については現在解析途中であり、平成28年度に解析を仕上げる予定である。その他、ゲルのアクチュエーター挙動の調査については数Vの電圧を印加してゲルのアクチュエーター挙動を調査した結果、8V程度の電圧でゲルは90度以上屈曲することを示した。このように、本年度計画していた多くの研究を実施することができ、本研究は概ね順調に進行している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究については、高分子-クレイコンポジットハイドロゲルのタフネス機構の解明を更に進めるともに、そのタフネス機構のモデルに基づいて新規なコンポジットハイドロゲル材料の創製に取り組む計画である。コンポジットハイドロゲルのタフネス機構の解明には、とりわけクレイ-高分子間の相互作用および、それに関連してクレイ粒子への高分子鎖の吸着層の構造が重要であると考えられる。それらの知見を得るために、従来の計画通り、水晶振動子マイクロバランス(QCM)法を用いた高分子-クレイ間相互作用解析、吸着高分子の粘弾性挙動を調査する。また、小角中性子散乱コントラスト変調実験データの解析を進め、クレイ粒子上の高分子吸着層の構造を明らかにする予定である。なお、上記の測定法はクレイ-高分子間の相互作用(吸着量)、吸着層構造の調査には適しているが、具体的にどのような分子(官能基)同士の相互作用が高分子-クレイ間に働いているのかという情報を欠いている。この情報の欠如は新規なコンポジットハイドロゲルを創製する際に問題となる。そこで、これまでの研究計画に加えて、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)を用いて、クレイ-高分子間にどのような相互作用が具体的に働いているのかを調査する。上記の測定・解析結果とゲルの力学物性を比較することにより、高分子-クレイコンポジットハイドロゲルのタフネス機構の具体的モデルを提出し、そのモデルに基づいて新たなコンポジットハイドロゲルを創製することを試みる。
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Causes of Carryover |
本科研費で購入した水晶振動子マイクロバランス装置はパソコン付属のセット価格で販売されていたが、手持ちのパソコンを使用し、パソコンの新規購入を見送ったために、当初の購入予定額より低い価格で装置を購入することができたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
前年度の水晶振動子マイクロバランス測定の結果、測定値の振動数変化や抵抗値は温度に敏感であることが分かっている。これまで測定室内のエアコンの温度管理で測定を行っていたが、より温度安定の優れたインキュベーター内に水晶振動子マイクロバランス装置のセルを入れて、測定を行うことが望ましい。この度生じた次年度使用額は、このインキュベーターの購入費用にあてる予定である。
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