2015 Fiscal Year Research-status Report
将来の気候変動における熱帯外から熱帯へのテレコネクションメカニズムの解明
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15K05280
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
吉森 正和 北海道大学, 地球環境科学研究科(研究院), 准教授 (20466874)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
塩竈 秀夫 国立研究開発法人国立環境研究所, その他部局等, 研究員 (30391113)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 気候変動 / 気候モデル / 将来予測 / ハドレー循環 |
Outline of Annual Research Achievements |
気候モデルMIROCで行われたシミュレーションについて、ハドレー循環や熱帯降雨分布の変化を調べるとともに、関連する数値実験を行った。大きく分けて、二つのアプローチをとった。 一つ目のアプローチでは、大気海洋大循環モデルによる20-21世紀の気候シミュレーションについて多数の感度実験を実施し、その結果を解析した。これらの感度実験では、放射強制要因を1つずつ別々に与えることによって、放射強制要因と熱帯の応答を明確に結び付けた。また、異なる初期値を用いた実験を複数行うことによって、放射強制による応答を内部変動から分離して確実に捉えるように工夫した。その結果、産業革命前に比べて、20世紀末には硫酸エアロゾルの排出増加により熱帯の北部で降水が減少し、南部で増加した。また、21世紀末にかけては、温室効果ガスの排出増加により、熱帯太平洋において南部で降水が減少し、北部で降水が増加する傾向が見られた。さらに、降水に対する大気中の水蒸気量変化の寄与と循環変化の寄与を定量化した解析では、南北分布の変化に循環が大きく関わっていることが確認された。熱帯の外からの遠隔影響については、熱帯外のみを温暖化、あるいは熱帯外の温暖化を抑制する実験を行うことによって明確に示すことができると考えられ、平成28年度以降の研究に向けた礎となる結果が得られた。 二つ目のアプローチでは、大気大循環・海洋混合層モデルを用いて平衡応答に関する感度実験を実施し、中高緯度の温暖化が熱帯の降雨分布に与える影響を取り出した。解析により、海洋循環の変化が無視できる場合には、北半球中高緯度の温暖化増幅が大気熱輸送を通して熱帯の降雨分布に比較的大きな影響を与えることがわかった。この結果は、「中高緯度の温暖化が熱帯の降雨分布に与える影響」というタイトルで平成27年度の修士論文としてまとめられ、教育的効果ももたらした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は、当初想定より多くの計算機資源が利用可能となったため、実験の実施を最優先した。20-21世紀の気候シミュレーションについて、大気海洋大循環モデルを用いて、ほぼ全ての放射強制要因について、(有効)放射強制力の計算と放射強制要因の切り分け実験、そしてそれらの初期値アンサンブル実験が完了した。このことから、研究は順調に進行していると考える。「研究実績の概要」に記載した修士論文の結果については、学会等では未発表であるが、今後積極的に発表を行っていきたい。こちらの結果については、海洋の力学過程を含まない混合層モデルを用いているものの、中高緯度の温暖化が熱帯の降雨分布に明確な影響を与えうることが確認された点で意義深く、海洋力学過程も含む大気海洋大循環モデルによる結果の検証が期待される。 産業革命前を基準にした20世紀末の熱帯降雨分布の南北変化については、東西方向に比較的一様でハドレー循環の応答としても確認されるが、21世紀末にかけての熱帯降雨分布の南北変化は、太平洋域に集中しており、当初検討していた東西平均場に注目した解析手法を拡張する必要が生じた。たとえば、大気中の水蒸気量変化の寄与と循環変化の寄与を定量化する解析では、そのように解析方法を改変した。このように、結果に応じて当初予定していた解析方法を応用する必要性が生じることは考えられるものの、結果の解析を含め、全体的に研究は当初の計画に沿って順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究でもっとも重要なステップは、熱帯外、具体的には北半球中高緯度の気候変動、特に温暖化が熱帯の循環や降雨分布の変化に与える影響を、数値実験により明確に示すことである。初年度すでに実施されたように、海洋循環の変化を考慮しない混合層モデルでは、こうした分離実験は比較的容易に実行できるものの、大気海洋大循環モデルでは多少の試行錯誤が想定される。現在、海洋の温度と塩分を特定の地域についてのみ外部から与える値に緩和する技術の導入準備を行っている。使用しているモデルについては、すでに国内で同様の技術を適用した研究実績例があり、初年度において協力関係を構築した。高緯度における海氷の取り扱いについては検討中であるが、比較的順調に進むことが予想される。また、平成28年度についても、比較的多くの計算機資源が利用可能であるため、この点についても大きな問題はないと考えられる。 これらの感度実験結果について、放射および気候フィードバック解析を行い、熱輸送とフィードバックの関係を確立する。東西非一様な応答に関しては、当初想定していた角運動量収支に注目するのではなく、地域ごとの運動量輸送などに注目する必要性が生じる可能性が考えられる。しかし、将来予測における熱帯降雨分布の南北変化は太平洋域に集中しているものの、現時点では、熱帯外と熱帯の寄与に分離するに至っていないため、熱帯外からのテレコネクションが東西非一様な応答を生じるか否かは不明である。いずれにしても、当初の計画通り、エネルギー収支と力学的視点に注目し、両者を統合する形でメカニズムの解明につなげていく。
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Causes of Carryover |
研究分担者との打ち合わせを、国内学会参加と同時に効率的に行ったため、当初見積もっていた旅費よりも少なく済んだ。また、当初想定したよりも多くの計算機資源が利用可能となったため、解析よりも実験の実施を優先させた。そのため、解析結果に関する打ち合わせ等は、来年度により重点的に行うことにした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額と翌年度分請求額を合わせて、増加した実験データの格納と長期保存、学会参加と研究分担者・協力者との打ち合わせのための旅費として使用する。
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Remarks |
研究室ホームページ http://wwwoa.ees.hokudai.ac.jp/people/myoshimo/ 研究内容に関する説明あり。
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Research Products
(6 results)