2015 Fiscal Year Research-status Report
超臨界水の水素結合受容能・供与能の指標化とプロトン移動反応への適用
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15K05399
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
木村 佳文 同志社大学, 理工学部, 教授 (60221925)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 超臨界水 / 超臨界アルコール / 水素結合 / ベンゾフェノン / ラマン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、超臨界水や超臨界アルコールの水素結合受容能、供与能をパラメータ化し、これらの溶媒中でのプロトン移動反応との関連を明らかにしていくことが目的である。今年度は、そのために既存の測定システムの改良、既存のセルを用いた超臨界アルコール中での水素結合供与能の評価、プロトン移動反応の実験の準備を進めることを行った。 測定系については新規にレーザーを一台購入するとともに、多目的高温高圧セルの改良をおこなった。光学窓のシールの際に締め付けによる破損が問題となっていたが、光学窓を押し付ける台座の面精度と鏡面状態の仕上がりを向上させることで、この問題を回避することを考えた。そのため、台座を磨くための治具を購入し、簡便に鏡面仕上げができるように環境を整えた。また、カートリッジヒーターをセルのまわりのジャケットに挿入するタイプに変更し、温度コントロール性能を向上させるための工夫をおこなった。 一方で、現有のシステムを用いて超臨界アルコール中でラマン測定による溶媒の水素結合能のパラメータ化をすすめた。今年度は、溶媒の水素結合供与能を明らかにするため、ベンゾフェノン分子のCO伸縮振動をターゲットとしてラマンバンドの測定を行い、超臨界状態でどのように変化するか明らかにした。超臨界アルコールやアセトニトリル、シクロヘキサンなどで測定し、シクロヘキサンの結果を基準とすることで、他の溶媒での水素結合供与の評価を行うことに成功した。その結果、臨界密度近傍でも、かなりの水素結合供与能を保持していることが明らかとなった。 プロトン移動のダイナミクスについては、新潟大学俣野教授の協力の下、測定サンプルとして5-シアノ-2-ナフトール(5CN2)の合成を行い、5,8-ジシアノ-2-ナフトール(DCN2)の合成を進めているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ラマン測定については非常に順調に進み、成果も着実に上がっており、学会発表も二度おこない、国際会議での発表も視野に入れて研究が進捗している状況にある。また高温高圧ラマン測定系の改良についても、着実に改良をすすめており、今後のシステム運用が容易になることが期待でき、ラマン分光測定については着実な研究の進展が期待できる状況にある。プロトン移動測定については、サンプルの合成に少々手間がかかり、昨年度具体的な測定が行えていないが、合成のめどは立っており、今年度以降に測定に取り掛かれば、こちらの分の測定のおくれは残りの期間で十分にとりもどせると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度購入したレーザーならびに改良を行った高温高圧セルの本格的な運用を行う。超臨界水中での水素結合受容能の評価を進めるために、p-ニトロアニリンを溶質分子として、溶媒を水もしくは水・アルコール混合溶媒として、超臨界水を含む溶液中での水素結合受容能の評価をすすめる。また、ベンゾフェノンについても水・アルコール混合系の測定を行うとともに、超臨界水の効果についても検討をおこなう。現状のシステムでは、水のアルコールに対するモル比が3を超えると、ベンゾフェノンの溶解度が大きく下がるため測定が困難になることもわかっており、ミキサを導入するかプローブ分子を変えることなどの工夫をおこない、超臨界水での水素結合受容能、供給能の検討を進めていく予定である。これらの系の水素結合状態については分子動力学計算の方法を併用することで、計算で得られる水素結合数と実験で得られるラマンバンドの比較を行い、詳細な理解を進めていく。 今年度よりプロトン移動の測定を本格的に進める。そのために、昨年度から手掛けているプローブ分子(DCN2)の合成をまず完了させる。その後、プロトン移動ダイナミクスを超臨界水で測定し、その後アルコールへと系を展開していく。310 nmのフェムト秒パルスでサンプルを励起したのち、時間分解蛍光スペクトルをストリークカメラで測定する。プロトン移動が生じればノーマル体とアニオン体の蛍光がそれぞれ観測されるので、そのダイナミクスを解析することにより、反応速度を決定する。結果をラマン測定で得られた水素結合能と比較する。またノーマル体およびプロトンが解離したアニオン体の、基底状態と励起状態における電子状態をDFTおよびTD-DFTにより評価する。これに対して、溶媒和クラスターとして水分子が1個あるいは数個結合したクラスターを作成しその安定状態を探り、水素結合によるエネルギー変化の詳細を探る。
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Causes of Carryover |
1万円程度の残額であり、ほぼ予定通り使用できたと考えている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の研究で必要な消耗品代として使用する。
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Research Products
(3 results)