2016 Fiscal Year Research-status Report
ナノポーラス液晶を鋳型とする機能性ナノ周期組織の創製
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15K05473
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
河野 慎一郎 名古屋大学, 理学研究科, 講師 (10508584)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 大環状化合物 / 液晶 / ナノ空間 |
Outline of Annual Research Achievements |
液晶の中に、特定のサイズや形状、化学的性質を持つ空間を創出することすることで、外部刺激に応じて可逆的に応答するソフトなポーラスマテリアルとして新規な機能性材料を生み出すことが期待される。本研究では、ディスクリートな空間を形成する液晶性大環状化合物を用いて、基板上に精密かつ高度に配向した液晶性ナノ空間を構築することを目的としている。以下に本基盤研究で得られた興味深い特性を示す。 1. 大環状骨格に、サレン配位子とジベンゾチオフェンからなる多核型大環状金属錯体が、金属イオンの種類によって、液晶性や集積構造を制御できることを見出した。また、モデル化合物の単結晶構造解析からも、大環状化合物の環状骨格が遷移金属イオンの種類やサイズによって、分子レベルで平面性を向上させることが明らかとなり、それによりマクロな分子集合体である液晶の物性を制御することに成功した(S. Kawano, T. Hamazaki, A. Suzuki, K. Kurahashi and K. Tanaka, Chem. Eur. J. 22, 12371-12380 (2016)。 2.ヒドロキサム酸を二つ有するナフタレン誘導体と銅二価のイオンから3:3の大環状金属錯体を効率良く得ることに成功した。この大環状金属錯体が、ラメラ構造を持つ液晶を形成することを明らかとした(S. Kawano, H. Inada, and K. Tanaka, Chem. Lett. 45, 1105-1107 (2016)。 3.カルバゾールーサルフェンからなる液晶性大環状化合物の温度可変の固体NMR測定を行うことで、相転移と共に大環状化合物の環状構造の運動性の変化が劇的に変化している様子をとらえることに成功した(S. Kawano and K. Tanaka, Bull. Chem. Soc. Jpn. in press.)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究で、ナノサイズの内部空孔を持ち、イミン結合によって連結された大環状化合物を合成し、サーモトロピックなカラムナー液晶性を示す化合物を評価することに成功した。サレン配位子とジベンゾジオフェンからなる大環状化合物は、そのサレン配位子に導入する金属イオンによって、固体-液晶-液体状態を形成し、金属イオン周りのミクロな配位構造の変化によって、マクロな組織構造が大きく変化することが明らかとなった。また、ヒドロキサム酸と銅の二価イオンの配位結合を介して大環状化合物を効率良く形成させ、それらがサーモトロピックなラメラ型液晶性を示すことも明らかにした。H28年度までの研究で、熱量測定や偏光顕微鏡観察、斜入射X線回折実験、固体NMR測定を用いて、これらの大環状化合物の構造解析を行ってきた。特に、分子レベルの詳細な分子の集積構造について、国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)での温度可変固体13C NMR測定を行った結果、カルバゾールとサルフェンからなるカラムナー液晶性大環状化合物が、液晶構造としてアルキル鎖が運動性の高い状態である一方、環状メソゲン部位は、室温ではNMRのタイムスケールに比べて遅い運動をしており、高温における相転移と共に環構造が動き出していることが明らかとなった。このような動的かつ柔軟なナノ空間を持つ材料として大変興味深い結果であり、論文として報告することができた。 また、特定のアルキル鎖の構造を持つ大環状化合物が平滑な基板上で、二次元結晶性ネットワークを形成することを見出している。これらは、尾上順教授と中谷真人准教授(名古屋大学工学研究科)との共同研究によって、走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いて、その自己組織化単分子膜構造のメカニズムやホストーゲスト相互作用を評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、液晶性大環状化合物によって形成するナノ周期構造体を鋳型として、機能性分子を精密に配列制御し、そのナノ周期構造を活かした機能化を目指すことである。それに当たり、本研究では、今後(1)液晶性大環状化合物の多様化、(2)固体NMR等の特殊な測定方法を駆使したナノ材料としての物性評価、(3)偶然発見した産物である、二次元ナノ周期構造を活かし、それらを鋳型として機能性分子の配列を実現するために、研究を推し進める。(1)に関しては、効率の良い自己組織化を利用する環合成を利用しているため、環のサイズや、様々な機能性金属錯体を基本ユニットとした大環状化合物を、既に数種類以上合成することに成功している。また、大環状金属錯体を軸位方向(環の面に対して垂直方向)に一次元に連結させたり、直線的な二座配位子を用いて巨大なナノ空間を持つケージ型分子のなどの高次ナノ空間を合理的に構築することも可能となっている。現在これらの詳細な物性評価を行っている。(2)に関しては、固体NMRに関する学会や研究会に積極的に参加しており、技術者や共同研究者との交流や意見交換により、液晶を用いた新規かつ柔軟なナノ空間の本質を追究する研究を引き続き行う。特に、標識化した元素を利用した多次元固体NMRや重水素を用いた分子運動を利用した実験を検討する予定である。(3)に関しては、二次元ナノ空間を周期的に配列することに成功しており、将来的に極めて多様かつ重要な知見が得られる研究に発展させることが可能であると考えている。既にこの二次元ナノ空間に機能性分子をゲスト分子として導入させ、周期的に配列させることに成功している(論文準備中)。今後は、(1)によって得られた多様な分子について(2)と(3)の切り口で研究を推し進め、これらの研究方策を軸に大いに本研究を発展させ、目標とするナノ周期構造の機能化を達成する予定である。
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